「戦争にチャンスを与えてみた件www」

我々はみなルトワックの子供たち。



ナゴルノ紛争「完全停戦」で合意、アゼル「アルメニアの降伏」と主張 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
ナゴルノ紛争、完全停戦で合意 アルメニア、事実上敗北:時事ドットコム
何度か停戦詐欺が続いていたナゴルノカラバフではありましたけど、ついに完全停戦になったそうで。

 ロシアのメディアによれば、共同声明にはアルメニアが占領地をアゼルバイジャンに返還することなどが盛り込まれており、劣勢だったアルメニアが事実上敗北したと受け取れる内容。アリエフ氏は10日、合意は「事実上アルメニアの降伏だ」と主張した。
 一方、パシニャン氏はフェイスブックに「私個人やわが国民にとって筆舌に尽くし難いほどつらい」と書き込んだ。アルメニアからの報道では合意に憤った市民が政府庁舎に侵入するなど混乱が起きた。

ナゴルノ紛争、完全停戦で合意 アルメニア、事実上敗北:時事ドットコム

案の定主戦派から反発されていますけども、外野から見ると英断と評価する人の方が多いのではないかなあ。
今回のナゴルノカラバフでもかなり懸念されていたように、最後の最後まで戦い続けて玉砕か大量虐殺か、なんてアホなことをするよりもずっとマシだよねえ。
もちろんパシニャン首相のようなかなり理性ある政治指導者の存在が不可欠ではありますけど。


アゼルバイジャンは「不当に奪われていた」領土の大部分を奪還し、
アルメニアはどうにか名目上だけとはいえカラバフ共和国の存続はできたし、
そしてロシアは停戦監視という重要な役割を担うことができたし、
割とよくできている停戦案なのではないでしょうか。
そしてこうした構図の中に我々が属し信じてきた国際社会が何か影響力を及ぼせることがないまま、見事に『極』の内部のパワーバランスとローカルな論理によって終焉しつつある。
21世紀にもなって国土回復戦争なんて、戦争を違法化()した国際社会()が黙っていないはずだったのにね。
MWO(Multipolar world order)にようこそ! - maukitiの日記
ザ・多極化世界の現実そのものに。




ここでクッソ皮肉で面白いなぁと思うのは、まさに我々による「国際社会の看過」こそ、こうして戦争当事者である両者の決着を決定的なものとして明確化させたことがこうした停戦に繋がっている(ように見える)点だと思うんですよね。

フェイスブックFacebook)のアカウントを通じて生放送で語ったパシニャン首相は、「軍は止まる必要があると語った。なぜなら、問題があるのにこれらの解決方法はない、または財源が底をついたからである」と述べた。

不十分な軍事資源のほか、前線で戦う兵士の数が減少したが代わりに配置する代替兵がいないと説明したパシニャン首相は、「兵士には休息が必要であった。前線で1か月間休みなく働く者達がいた。アルメニア政権とナゴルノ・カラバフ政権は戦いを一刻も早く終わらせる必要があると判断した。さもなければ、結果はより深刻になっていたであろう」と話した。

パシニャン・アルメニア首相 「停戦合意は筆舌に尽くしがたい苦痛」

まさに敗北した側のパシニャン首相が身も蓋もなく現実を述べているように。
「知ったこっちゃないね!」戦争を容認化させるソーシャルメディア - maukitiの日記
我々の戦争への無関心さが、ナゴルノカラバフに平和をもたらそうとしている。
両者は戦力の限界まで戦うことで5000人以上の被害者を出しながらも、しかしそのおかげで戦争は終わりつつある。
やっぱり平和を愛する日本人()って最高だよね。





『戦争にチャンスを与えよ』の中でルトワックはユーゴスラビア紛争の中でも、(外部からの介入のなかった)セルビアスロベニアの間の戦争は短期間でほぼ完全に終了したことと、一方でドイツ(クロアチア独立承認*1)をはじめとするEUや国連やOECDの介入のせいでセルビアクロアチアの戦争は長引くことになったことを比較して、多少の犠牲はあっても「きちんと最後まで戦争で決着させることで強固な平和状態がもたらされる」と指摘しているんですよね。

二つの国の一方が勝って、一方が負ければ、双方とも戦争を止めて、普通の生活に戻る。
敗者は両程の一部を失うかもしれないが、それでも国民は普通の生活に戻り、仕事を再開し、家族を養うのである。

こうした身も蓋もない戦争による決着こそ、まさに彼の言う「戦争が平和をもたらす」ことの現実の証左でもあるわけでしょう。


それこそ我が身である本邦を振り返ってみても、中国や韓国の行為に対して吹き上がる過激ネトウヨなみなさんはいても、一方でそれ以上に多いアメリカの横暴に対して――その点で反米左派な人たちが言う反アメリカ言説には一定の説得力がある――はまったく沈黙しているわけで。
だって、私たちはまぁこれ以上ない程、見事に、戦争に負けてしまったのだから。
そこで再び戦争をするような議論の余地などほとんどない。



こうして2020年にも、「戦争によって平和がもたらされる」実例がまた一つ生まれる、かもしない。
やっぱエドワード・ルトワックがナンバーワン!



みなさんはいかがお考えでしょうか?
 
 

*1:ナチス時代からズッ友だょ……!