「全世界で一億人が感染し二百万以上の死者を出している感染症」の調査団に与えるべき権限ってどれくらい?

たかが二百万人じゃ子供のお使いなのは変わらない?


WHO調査 武漢の市場を視察 多くの患者確認の海鮮市場と別場所 | 新型コロナウイルス | NHKニュース
WHOの武漢調査が難航 海鮮市場、当時の環境から変化[新型コロナウイルス]:朝日新聞デジタル
WHO調査団、武漢の動物感染症対策センターを視察 - ロイター
少し前に足止めで話題になっていたWHOの調査チームが武漢入りしていたそうで。

調査チームは、30日もおよそ2時間半にわたって中国共産党の指導のもと、感染の封じ込めに成功したと宣伝する展覧会を視察していて、中国側としては、国際社会から初期対応への遅れが指摘される中、対応の正当性をアピールするねらいがあるものとみられます。

一方で、海鮮市場のほか、コウモリのコロナウイルスの研究で知られ、アメリカがウイルスが流出したと主張している武漢ウイルス研究所への視察は、これまでのところ実現していません。

WHO調査 武漢の市場を視察 多くの患者確認の海鮮市場と別場所 | 新型コロナウイルス | NHKニュース

……うん、まぁ、そうねえ。
もちろん今のコロナに対処する上で、発生源を突き止めることにどれだけ意味があるかというと、ここまで流行してしまった以上まぁぶっちゃけ今更あんまり意味は無いよね。
だからWHOによる武漢調査も建前だけでおざなりでいい、というのは確かに一理あるんですよ。
でも、今後長期的にはまず間違いなく発生するだろう、次の、第二第三の大規模な感染症のことを考えたら……。


といってもこれがWHOの責任なのかというと、悲しいことに、そうじゃないわけですよね。
徹頭徹尾、彼ら彼女らにはそれをするだけの権限がないだけ。

WHOの緊急対応責任者マイク・ライアン氏は、今回の調査で新型コロナの起源に関する全ての答えが見つかるわけではないかもしれないとし、新たに疑問が浮上する可能性もあるとした。

また「(調査は)国際社会の支持に値するものであり、やり遂げる価値がある」と述べ、調査結果を受け入れないとする向きを批判した。

WHO調査団、武漢の動物感染症対策センターを視察 - ロイター

善意と正義心溢れる彼らは、自分ができる範囲で、全力で職務を遂行しているのはおそらく間違いないでしょう。
ただその正義を実現できるだけの権限がWHOという国際機関に付与されていないだけ。
かくして「感染の封じ込めに成功したと宣伝する展覧会を視察」というオチにつながっているのは、いかにも現代国際関係の縮図という感じでほっこりしますけど。


だからこのニュースを見てもし怒りや不満を持つならば、その人たちが考えなくてはいけないのは「だったらこのWHOの調査チームに一体どれくらいの権限を与えるべきなのか?」という点であるわけでしょう。
今のように子供のお使い程度でいいと思っているの?
それとも強制的に主権国家の内部の調査を自由にやるだけの権限を与えるべきなの?


――しかし、そうした強力な権限を付与することには当然、それに比例する形で強い反発を生むことになる。
国際刑事裁判所の問題などを見れば解るように、その国際機関に強い権限があればあるほど必然的に、内政干渉問題や(悪意ある)第三者に悪用されるのではないか、という危機感を持つのは当然の帰結でしょう。
更には、仮に協力する義務がある、と規則で定めることができたとしても、いざ本番で非協力的になる国家に対してどのようなペナルティを与えるべきなのかという点も。
こうした問題は、国際機関での不協力問題として、2021年の今なお解決に至っていないわけでしょう。
むしろ、トランプ政権が見せていたように、そうした一国主義的な態度はより強くなっているとさえ言えるかもしれない。




だから国際機関や条約における不協力問題というのは、昨今の世界全体での協力が求められるトレンドである『核なき世界』でも、あるいは『気候変動』でも絶対に避けては通れない問題であります。
グレタさん世代、気候変動に強い危機感=国連調査 - ロイターニュース - 国際:朝日新聞デジタル
グレタさんのような子供や、
「核なき世界」へ弾みを | 1面の記事から | 朝日中高生新聞 | 朝日学生新聞社 ジュニア朝日
あるいは真摯に『核なき世界』を夢見る学生たちは、別にそれでもいいんですよ。
――しかし、大人である私たちは、絶対にそういうわけにはいかない。
今、WHOの調査チームが見せている間抜けな光景は、いつかそれらの問題でも絶対に直面するだろう問題である。


理想や正義に燃える人たちはその野心的目標の壮大さを競っておけばいいものの、しかし現実に生きる大人たちはその目標に協力しようとしない人たちの対応の方にこそ頭を悩ませることになる。
今回のWHOの調査チームのように、あからさまに非協力的だったりサボタージュや証拠隠滅を図られたらどうするの?
それを咎めるだけの権限を国際機関に与えることを私たちは望んでいるの?
もし、その権限行使にも反対されたら一体どこまで行くつもりなの?
国際連合憲章第7章でも持ち出すの?*1




ちなみに、そうした国際機関による調査団の失敗事例の一つが、あの2003年のイラク戦争でもあったわけでしょう。

フセイン元大統領は、拘束後のFBIの取調べにイラクが査察に非協力的だったのは「大量破壊兵器を保持している事をほのめかす事でイランや国内の反政府勢力を牽制しようとした」ためで、化学兵器などの大量破壊兵器は「湾岸戦争後の国連の査察ですべて廃棄させられたため最初から無かった」と証言している[15]。*2

それは単純にあるかもしれないモノを見つけられなかったという単純な話ですらなく、むしろあるような素振りさえも見抜くことができなかった。
結果として大量破壊兵器は無かったと結論付けられているものの、国連による武器調査団に対するイラクの非協力的な態度が逆説的に、アメリカやイギリスの疑惑をより強めることになった。
マトモに協力してくれない相手への制裁は、最後には行きつくところ=戦争にまで至ってしまった。



今のWHOが無能だと怒る大人な私たちは、この不協力問題を避けては通れない。
ところがより強い権限を与えれば与えるほど、こちらも同じくしばしば言われているように、今度は中国やアメリカなど大国の影響力を無視できなくなってくる。
だから今回のようにWHOなどの国際機関や条約が肝心な時に『無能力』な状態って、何も不作為の帰結ではなくて、ひたすら国際関係の均衡と妥協の極致でしかないんですよね。


私たちはこの均衡と妥協で生まれた国際機関を別の何かに生まれ変わらせることができるのだろうか?
新型コロナ 世界の感染者1億340万人 死者223万人 | 新型コロナウイルス | NHKニュース
現在直面している「世界で一億人が感染し二百万以上の死者を出した感染症」の調査団に一体どれだけの権限を与えるべきだと考えているのだろうか?

WHO、権限強化の改革議論 コロナ緊急事態から1年:時事ドットコム
やはり、たかだか200万人の死者では世界は変わらないのだろうか?


みなさんはいかがお考えでしょうか?