多国間政治の悲劇

世界の歪み、見つけちゃったね。


核をめぐる議論の現在地 オバマ政権の核政策担当者と読み解く:朝日新聞GLOBE+
核禁条約に夢見る人たちではなく、実際の当事者たちがどう考えているのか、という点でとても解りやすい記事。

バイデン政権はロシアとの軍備管理体制を維持したいと考えている。新STARTの延長は簡単な問題だった。

難しいのは、5年の延長期間が終了した時に何をすべきかについてロシアと合意することだ。

冷戦時代の軍備管理は、米国とソ連という二国間で核兵器をコントロールするという単純な問題だった。

しかし、今日の世界は二国間ではなく多国間の問題になっている。更に、軍備競争には、核兵器だけでなく、ミサイル防衛極超音速兵器、サイバー空間、宇宙空間も含まれる。より複雑な問題だ。

そして、ロシアも中国も、米国との間でさらなる核削減交渉に参加する準備ができていないようだ。

核をめぐる議論の現在地 オバマ政権の核政策担当者と読み解く:朝日新聞GLOBE+

まぁ結局こういうことだよねえ。
これまでは(基本的には)二国間だけの問題であった問題は、今でも多数のプレイヤーが入り乱れる様相になっている。
かつての米ソ(そしてその主戦場であったヨーロッパ)だけでなく、新たな大国である中国と私たち日本含む周辺国や北朝鮮、印パ、更には中東地域でもイスラエルやイランの問題があるわけで。しかもそれぞれが濃淡様々に関わりあってもいる。
それぞれが納得できる解答を用意できるかと言うと、……僕にはちょっと無理そうだなあと思うかなあ。


かくして現代世界では「より」問題解決が難しくなっている核兵器の問題。
――だからこそ、『核なき世界』を真剣に夢見る人たちが核禁止条約に望みをかけている、という状況自体は理解できるんですよね。
追い詰められている状況で、それでも一発逆転ホームランを信じている健気で僅かな希望だとも言えてしまうんですけど。
あれってむしろ進歩の証ではなく――もちろんそれはNPTの結果的な失敗の帰結でもある――『核なき世界』が実際には追い詰められていることの証左だよなあと。




そこが聞きたい:核兵器禁止条約の効力=ICAN国際運営委員・川崎哲氏 | 毎日新聞
ここで面白いのは、そうした多国間の問題であることを事実上無視した形で、それを一点突破しようとしている点だと思うんですよね。

――禁止条約はゴールを示すが、そこにいたるプロセスがない、という批判があります。

 ◆この条約ほど保有国が核廃絶するプロセスを明確に書いた条約はないと思う。発効後1年以内に開かれる締約国会議では、核を持つ国がなくすと決めた場合、どういう手続きをとり、どういう国際機関が必要で、どのような検証方法をとるのかを具体的に話し合っていく。北朝鮮が仮に真面目に非核化に合意したとき、米国と北朝鮮だけの非核化の検証で日本や韓国は安心できるだろうか。非保有国の科学技術者も参加して、何らかの国際機関で公正な形でモニターする必要がある。現段階で、こういう重要な議論をする場はこの条約の締約国会議以外にはない。だからこそ、日本はオブザーバーとして議論に参加すべきだ。

そこが聞きたい:核兵器禁止条約の効力=ICAN国際運営委員・川崎哲氏 | 毎日新聞

記事を『そこが聞きたい』という企画で載せているのは毎日新聞の高度な皮肉なのかな?
「核を持つ国がなくすと決めた場合、どういう手続きをとり、どういう国際機関が必要で、どのような検証方法をとるのか」
マジでその中身こそが重要なのにね。
まさかの核保有国抜きでそれを決めようとしている人たち。(実際に決められるとは言っていない)
まぁ確かにそうすれば多国間の問題をまるっと無視できるもんね!
これこそコロンブスの卵!


「全世界で一億人が感染し二百万以上の死者を出している感染症」の調査団に与えるべき権限ってどれくらい? - maukitiの日記
先日も、WHOによるコロナ調査についての日記でも書きましたけど、そのプロセスこそ重要である。そして現代世界では、より多くのプレイヤーが正しく発言権を得ることで、その利害調整は無限に複雑になっている。

理想や正義に燃える人たちはその野心的目標の壮大さを競っておけばいいものの、しかし現実に生きる大人たちはその目標に協力しようとしない人たちの対応の方にこそ頭を悩ませることになる。
今回のWHOの調査チームのように、あからさまにに非協力的だったりサボタージュや証拠隠滅を図られたらどうするの?
それを咎めるだけの権限を国際機関に与えることを私たちは望んでいるの?
もし、その権限行使にも反対されたら一体どこまで行くつもりなの?
国際連合憲章第7章でも持ち出すの?*1

「全世界で一億人が感染し二百万以上の死者を出している感染症」の調査団に与えるべき権限ってどれくらい? - maukitiの日記

はたして国家の存亡にかかわる安全保障の直結するこの問題で、当事者抜きで、その具体案を生み出すことができるのだろうか?
コロナですらご覧の有様ですよね。
いわんや核兵器をや。




今回もいつものように「バスに乗り遅れるな!」と核禁条約にコミットすることを要求する人たちは少なくありませんけども、個人的にはこの点の合意案が見えてきて、なおかつ、核保有国たちが参加する意思があるかどうかの反応を見るまではオブザーバーとして参加までもないんじゃないかなあ。
成功したらしたらで、元々非核国である私たち喜んで『核なき世界』にそのまま参加すればいいだけだし。
これまで通り核の傘で守られつつ、「明確に描いたプロセス()」が完成するのを待っていればいいんじゃないかな。



ぶっちゃけそこを解決できるならば、現代世界にある多国間政治の悲劇によって突破できていない『核なき世界』『コロナ』『気候変動』『難民』『環境破壊』『人権』『戦争』の多くが完全解決できる目途が立つんじゃないかな。
だって世界全体が手を取り合って協力できる、ということの前例となるのだから。
逆説的にそれらが解決できていない現状というのは、つまりそういうことでもある。
やっぱりリターンは無限大に大きいのかもしれない。
……ぼくにはとてもおもいつきませんけど。


多国間政治の悲劇について。
みなさんはいかがお考えでしょうか?