やっぱり今こそふたたび『独裁制と二重基準』の時代?

これからの対アフガニスタン融和策、ジーン・カークパトリック*1が見たらどう思うでしょうか?(三年ぶり二回目)


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アフガン戦争終結を正式宣言 駐留軍撤収「類いまれな成功」―米大統領:時事ドットコム
ということでアフガニスタンの物語は終わり、我々はその後の世界を生きていくことになる。

 バイデン氏は約25分間の演説の冒頭、「米史上最も長い、20年に及ぶアフガン戦争を終わらせた」と表明。これまでに莫大(ばくだい)な資金を投じ、計80万人の兵士を送り込んだが、その対価として多くの機会を失ったとして、「もはや国益にかなわない戦争を続けることはしない」と理解を求めた。
 一方、イスラム主義組織タリバンが全権を掌握したアフガンから現地協力者ら12万人以上を退避させ、出国を希望する在留米国人の9割を救出したと強調した。「米国だけがこの退避作戦を遂行する能力を有していた」と胸を張った。

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ロシアは相変わらずロシアでG9まで夢見ていたものの結局は冷戦終結以降今が一番元気()になっているし、そして何よりかつてのソ連に匹敵するかそれ以上のライバルになりそうな中国との戦いがある以上アフガニスタンにこれ以上かまけているわけにはいかない、というのはまぁ戦力集中という点で正論ではあるのでしょう。
同盟国のアメリカへの信頼低下という問題はありますけども、ベトナム撤退の後にも揺り戻しで関与が増したという歴史もあったりするわけだし。

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ただまぁどちらにしても、今後のアフガニスタンに対する態度、というのはアメリカにとって(そしてもちろん日本にとっても)明確な同盟関係にない有象無象な中小国とどう接していくのか、という難題を考えるテストケースにはなると思うんですよね。


敵意が無いことは解っているものの、どう考えても独裁的な政権である国内で大小さまざまなレベルで人権蹂躙をしている国家たちに私たちはどう対応すればいいのだろうか?
――ここでリアリズムの視点に立つのであれば話は簡単なんですよ。相手の能力を見て危険な敵にだけ対応すればいい。国内で何が起ころうと知ったことではない。
私たちは「単に人間であるということに基づく普遍的権利」というタテマエを守り続けることができるだろうか? - maukitiの日記
しかし『人権』を基盤にしたリベラルな国際秩序の視点に立つとやっぱり話は簡単にはいかなくなるし、結果としてそうしたネオコン的態度から始まったそれが今のアフガニスタン撤退という結末に辿りついてしまったわけで。


ここで考えるヒントになりそう、というか歴史の韻を踏んでいるなあとしみじみ思うのが、冷戦時代にかなり似た問題に悩んでいたアメリカの外交政策史でもあります。
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いまふたたび『独裁制と二重基準』の時代? - maukitiの日記
上記三年前には北朝鮮を念頭にそうした構図を想定していたものの、まさかアフガニスタンでここまで劇的な『絵』になるとはまったく想定外でありました。もっとアメリカ撤退後gdgdな内戦と共に自然消滅的に消えていくものとばかり……。

当たり前の話ではありますが、一口に独裁国家といっても広い世界には、危険な独裁国家も友好的な独裁国家もあるわけで。それを区別して考えることが重要ではないか、ということをかつてジーン・カークパトリックという人が言っていたんですよね。1970年代後半のアメリカのリベラルたちの矛盾について。

われわれは(「多様性」や国家的自立という美名の下で)共産主義諸国の現状維持を認めているのに、「右翼」独裁者の支配する国や白人の寡頭体制については、それを認めていないようにみえる。

このダブルスタンダードを正すには、穏健であろうが過激だろうが左右の独裁政権へ強い圧力を掛けることも一つの選択肢ではあるでしょう。しかし彼女は、むしろ「親米の独裁政権」には目をつぶるべきだ、と主張しました。
故にカーター政権の行った、親米派だったイランやニカラグアへの民主化要求は間違っているだけでなく、むしろその後の展開を考えれば害悪ですらあったと論じています。民主化は大事だけれども、その実現は絶対に簡単ではない。


だから自分たちに「都合のいい」独裁政権は見逃して、「都合のわるい」独裁政権には民主化要求をしよう。ザ・ダブルスタンダード

いまふたたび『独裁制と二重基準』の時代? - maukitiの日記

今風に言うなら『人権蹂躙と二重基準』あたり? 
中国との対決でより優位に立とうとするならばその人権擁護という価値観をかなぐり捨てて、自分たちのリベラルな価値観に合おうが合わなかろうが、(親米政権であるならば)彼らの現状維持を容認すべきである、なんて。
いやあジーン・カークパトリックさんは良いこと言っているよね。ネオコンでもあるんだけど。


もちろん今回の件がそのまま通用するわけではないでしょう。
しかしミャンマーやフィリピンなどの東南アジアから、中央アジアや中近東や北アフリカや東欧まで、こうした『独裁制二重基準』を念頭に米中対立な世界を生きていく上での選択肢となるのは間違いないと思うんですよね。
一方で、ポスト冷戦の世界秩序としようとしていた『人権』を大前提にしたリベラルな国際秩序を考えると、それを安易にやってしまうことの危うさもやっぱりあって、むしろ前回の米ソ対決に突き進んだネオコンの時のように今回も更に『人権』擁護によって中国との強硬な態度に突き進む可能性もあるんですけど。


かなりの可能性で、歴史の転換点となるだろう今回のアフガニスタン撤退イベントが、今後の国際関係――特にアメリカの外交政策にもたらすものについて。
みなさんはいかがお考えでしょうか?