『SDGs』対『タリバン』という大盛り上がり間違いなしの怪獣大決戦がはじまる……か?

いやまぁ既にグリーンウォッシュと批判されるようなSDGsの少なくない支持者たち*1がそうしているように、自分にとって都合の悪い点を見なかったフリをしてもいいんですけど。


タリバン、女子学生に顔覆う「ニカブ」の着用命令 写真2枚 国際ニュース:AFPBB News
ここでクッソ面白いというか、改めてそういえばそうだよなあと思わず唸ってしまったのは、このAFPBBの記事のタグに「SDGs」「ジェンダー平等を実現しよう」というのが付いている点なんですよね。
「人権」というタグをつけるところまでは割と見かけていたものの、ここで「SDGs」とまで言い切ってしまうのはさすがフランスだよなあと感心してしまいました。

【9月6日 AFP】アフガニスタンで権力を掌握したイスラム主義組織タリバン(Taliban)は4日、私立大学に通う女子学生に対し、「アバヤ」と呼ばれる長衣と、顔のほとんどを覆う「ニカブ」の着用を命じた。教室も男女別とし、少なくともカーテンで仕切ることが義務付けられた。

 タリバンの教育担当部門が発表した長文の文書は、女性教員だけが女子学生に指導できると明記。それが難しい場合には人格の優れた「高齢男性」が代行することは可能としている。

タリバン、女子学生に顔覆う「ニカブ」の着用命令 写真2枚 国際ニュース:AFPBB News

タリバンのニカブ着用命令は明確にジェンダー平等ひいてはSDGsに反している、と少なくともAFPBBは考えている。
――まぁその身も蓋もない正論について頷くしかないよね。いやまぁタリバンの「女性は(イスラム法の範囲内で)保護される」というダブルスピークな建前を信じてみてもいいですけど。
しかし、少なくともおそらく世界でも最も激しくニカブ論争をしてきたフランスの彼ら彼女らがそれを言う*2のは色々示唆的でしょう。


先日の日記でも少し言及しましたけど、これが長期の内戦によって「徐々に」喪われていくのであればここまで問題にはならなかったと思うんですよね。というかおそらくアメリカの当局者たちを筆頭にほとんどがそのように考えていた。
そうであればアフガニスタンの『女性の権利』も同様に、徐々に喪われていくことでそこまで大きなニュースにはならなかったんですよ。ジャレド・ダイアモンド先生が「風景健忘症」と名づける構図によって。
ところが現実のアフガニスタンはそうはならなかった。
ものの見事にアフガニスタン政府はあっさり崩壊し、ものの見事にタリバン政権が誕生し、ものの見事に女性の権利が我々の目に見える形で喪われようとしている。
「女性に対する戦争を世界は静観している」 アフガニスタンの現状を語る - BBCニュース
民家や学校に放火、12歳少女に結婚強要…タリバン支配地で蛮行目立つ : 国際 : ニュース : 読売新聞オンライン
タリバン「女性の権利尊重」 マララさんは懸念表明:時事ドットコム

目標5. ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う
5.1 あらゆる場所におけるすべての女性及び女児に対するあらゆる形態の差別を撤廃する。
5.2 人身売買や性的、その他の種類の搾取など、すべての女性及び女児に対する、公共・私的空間におけるあらゆる形態の暴力を排除する。
5.3 未成年者の結婚、早期結婚、強制結婚及び女性器切除など、あらゆる有害な慣行を撤廃する。

持続可能な開発目標(SDGs)とターゲット - SDGs 持続可能な開発目標 | 日本ユニセフ協会

うーん、割とどれもアウトになりそう。



ということで、ここで概ね一般的なポジションとしては、「SDGs」と「タリバン」はほぼ明確に対立する構図が完成しつつある、と見てよさそうであります。
先日も篠田先生がアフガニスタンで敗北したのは、自由主義諸国全てである ? SAKISIRU(サキシル)という興味深いお話を書いておりましたけども、このままタリバンの蛮行を放置すれば自由主義諸国全てだけでなく『SDGs』の敗北にも繋がるわけでしょう。
そもそもリベラルな価値観を下にしたSDGsは、普遍的価値観という視点から全世界を射程に入れた「誰ひとり取り残さない」というのをまず最初に掲げる目標でもあったわけで。


もちろん普段から「SDGsとかアホくさ~」と思っているのであれば、好きな回転寿司のネタでも考えていればいいんですよ。
しかし、概ね素朴な善意からSDGsに賛成する我々としては、「5.ジェンダー平等を実現しよう」に不作為どころか明確に後退させようとしているタリバンに、その他の目標と同じように何らかのアクションを取らねばならない。
「誰ひとり取り残さない」ために。
――でもどうやって???
いや、別に個人の活動今すぐ現地に行って中村さんのように滅私奉公しろとか言いたいわけじゃないんですよ。
しかし、それでも自国の対アフガニスタンタリバンとの外交政策の賛否については表明することはできるわけでしょう。
我々はタリバンが再び支配するようになったアフガニスタンでの「5.ジェンダー平等を実現しよう」の為にどのような政策を自国政府に要求するべきなのだろうか?

  • タリバンイスラム法に従って生きるのをやめるべきだと説得するべきだろうか?
  • 米軍が撤退したことでこの状況が始まった以上、再び米軍に戻るように説得すべきだろうか?
  • あるいは今度こそNATOのような有志連合軍がアフガニスタンに駐留すべきなのだろうか?
  • それとも、やはり、アフガニスタンのことなど知ったことではないと、リアリズムな態度で見て見ぬフリを続け「グリーンウォッシング」ならぬ「ジェンダーウォッシング」に勤しむべきだろうか?


タリバン政権下にある女性たちの人権を守っていく方法について。それはつまり現代国際関係における最重要のテーマの一つでもある『保護する責任』の射程についての議論でもある。
SDGsに関心のある意識の高い(別に皮肉ではない)みなさんは、そんなタリバンについていかがお考えでしょうか?