そんなガードレールで大丈夫か?

久しぶりに「まだ問題なさそう」と言えるような総裁選だったかなあ。



岸田文雄氏、自民党の新総裁に選出 首相就任の見通し - BBCニュース
高市・野田両陣営に手応え 河野氏陣営は想定外の伸び悩みに衝撃 | 毎日新聞
ということで総裁選が終わり岸田さんに決まったそうで。おめでとうございます。

 知名度河野氏に劣る岸田氏は、1回目の投票で2位につけ、決選投票での逆転勝利を目指してきた。ところが、結果は1回目から1票差で首位に。そのまま決選投票でも河野氏を突き放した。「2、3位連合じゃなく、(1回目で)1位の候補になれた。これは大きい」と支援した議員は声をはずませた。

高市・野田両陣営に手応え 河野氏陣営は想定外の伸び悩みに衝撃 | 毎日新聞

タイミングなのか、あるいは前回行われなかったフルスペックだからなのか(野党の人たちが思わず口をはさみたくなる程度には)割と盛り上がった総裁選ではありましたね。
個人的にはガラスの天井への一撃となるだろう高市さん推しではありましたけども、概ね事前に予想されていた通りの展開だったのではないでしょうか。


風が吹く - maukitiの日記
一年前、安部さんの退陣を受けての日記で「これから日本にもポピュリズムの風がやってくるでぇ!」と書いたんですが、ここで河野さんが大本命というところまでは割と予想通りだったんですよね。それこそひたすら地味過ぎる今の菅さんの後任であれば尚更そうなるだろうと。
――ところがぎっちょん、蓋を開けてみれば一回目投票ですら僅差どころかほぼ同率ながら一位が岸田さんっていうね。
実際の能力はともかくとして、少なくとも選挙の顔になりそうな河野さんではなく、岸田さんを選んだ自民党。今回の総裁選のニュースを見ていて、この自民党の政党評価こそ良い意味で予想外で見直した、というのが一番の感想ではありました。
それこそ『政党』というのは民主主義政治を維持していく上で、最も重要な要素の一つでもあるのだから。
民主主義政治を運用していく上ではそこは避けては通れないわけでしょう。


善意ある私たち個々の有権者としては、その選挙での投票行動が民主主義政治を守っていくと素朴に信じているわけですけども、例えば『民主主義の死に方』の中でスティーブン・レビツキーとダニエル・ジブラットなどは、むしろ政党こそその党内政治によって(未来の)独裁者たちを抑制している、と指摘しているんですよね。
政党は民主主義政治の暴走を防ぐ門番でありガードレールである。
(それに失敗しトランプという暴君を野放しにしてしまったアメリカの共和党を念頭に)

どんな民主主義社会にも潜在的な大衆扇動家は存在し、そのうち何人かがどこかのタイミングで国民の心をとらえる。しかし一部の民主主義国家では、政治指導者が警告サインに目を光らせて対策を講じ、権力の中心から遠く離れた場所に独裁者を押し留めておこうとする。過激主義や大衆扇動家が台頭しはじめたら、政治指導者たちは一丸となって彼らを孤立させ打ち倒そうとする。もちろん、過激主義者を封じ込めるためには一般市民の力も大切になる。しかしもっとも重要なのは、政治エリート(特に政党)がフィルターとして機能できるかどうかだ。つまるところ、政党こそが民主主義の門番なのである。*1

もちろん河野さんが未来の独裁者になるとまでは絶対に言いませんけども、しかし見事に扇動上手な候補である彼を敗北させ、上記のような「門番」としての構造が働いた総裁選だったよなあと。
やはり自民党内部での政策議論がこうしてオープンな形で行われ投開票がきちんと報道されたのは、自民党が民主主義政治における『政党』としての役割を概ね正しく果たしていることの証左となっていたのではないかと思います。
まぁこうして党内でも票が割れている自民党をして「独裁!」と叫ぶ愉快な人たちはいっぱいいるわけですけど。そうだよねアベはヒトラーだもんね。


ということで自民党に伍するような政権交代が可能な政党を目指す野党の人たちは、今回の自民党の総裁選を丸パクリすればいいと思うよ。
合流新党、代表選は立憲vs国民 枝野氏・泉氏一騎打ち:朝日新聞デジタル
立憲民主党の方を見ながら)うん、まぁ、次はがんばれ……。
共産党の方を見ながら)あっ、ふぅ~~~ん。
今回の総裁選を見て改めて思いましたけども、以前の日記でも少し書いたように現在の日本共産党を少なくとも国政においては『政党』として評価すらしたくないのは、別に共産主義思想や、個別の政策である憲法自衛隊や、あるいは過去の暴力革命な歴史云々ではなくて、むしろこの点なんですよね。
ぶっちゃけ党内選挙すらやらないって「民主主義の門番」として問題外過ぎるし、そんな彼ら彼女らが独裁や民主主義政治の危機を訴えるのはギャグにしかならないでしょうに。
そんなガードレールで本当に大丈夫?


民主主義政治を愛する僕としてはやっぱり政党はきちんと機能していた方がいいと素朴に信じているので、そうした不安に応えるだけの安心感――無論実際にどうなるかは別問題である――を与える『政党』としての矜持を見せたのが今回の自民党総裁選だったのではないかと。
まぁもちろん次回には再び小泉親子のように「自民党をぶっ壊す!」運動が盛り上がっているかもしれませんけど。


みなさんはいかがお考えでしょうか?
 
 

*1:『民主主義の死に方』第一章 致命的な同盟