ヨーロッパの中心で「気候変動は世界で最も重要な問題である」と叫ぶドイツ

「ガスを優先するのはドイツの為の選択肢なのではない、世界の為の選択肢なのだ」
そしてその言葉が意味するウクライナにおける行動とはつまり……。


【寄稿】ドイツは信頼できる米同盟国ではない - WSJ
独新政権の対ロ姿勢に疑念 ウクライナへ武器供与拒否:時事ドットコム
うーん身も蓋もない。

 独政府はウクライナへの武器供与を拒否し、さらにエストニアによるウクライナへの武器供与を阻止しようと活発な動きを見せている。英国はここ何日かの間に対戦車用兵器をウクライナに空輸し、ウクライナ情勢に関連した情報収集のため航空機の飛行を行っている。情報収集の飛行は、英国とウクライナを結ぶ最も直線的ルートであるドイツの領空を通過するルートで行われたが、兵器の空輸はドイツを迂回するルートを利用した。英国防省はこの兵器空輸に関し、ドイツに領空通過の許可を求めなかったことを認めるとともに、この迂回措置に大した意味はないとの見方を示した。しかし許可を求めなかったこと自体が重要だ。英国が許可を求めなかったのは、許可を要請した場合にドイツがそれに応じるか拒否するかの選択を強いられるからだった。オラフ・ショルツ首相が率いるドイツの新政権にとって、その判断は難しいものになると英国は考えたのだ。

【寄稿】ドイツは信頼できる米同盟国ではない - WSJ

 ウクライナはドイツの軍艦や防空システムの供与を求めているが、ショルツ独首相は18日、「ドイツは致死的な兵器を輸出しない」と明言。さらに米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、ドイツはエストニアが旧東独製の榴弾(りゅうだん)砲をウクライナに送ることも許可しなかった。また、独海軍総監が21日、ロシアのウクライナ侵攻の可能性を「ばかげている」と発言し、辞任に追い込まれた。
 エストニアを含むバルト3国はロシアの脅威を深刻視。バルト3国に備蓄されている対戦車ミサイルなどの米国製武器のウクライナへの再輸出を認めるよう米国に要請し、米国も承認した。英国やポーランドも武器供与を進めており、ドイツの慎重姿勢は際立ち始めている。

独新政権の対ロ姿勢に疑念 ウクライナへ武器供与拒否:時事ドットコム]

まぁでもこのドイツの『平和的』行動は、既にクリミアやドンバスの時から見えていたお話ではあるんですよね。
その意味では、彼ら彼女らは一貫しているんですよ。
ウクライナより(環境に比較的良い)ガスの方が重要なのだ、と。
ノーマン・エンジェルさんの『大いなる幻想』の二面性 - maukitiの日記
まさに彼らは経済的相互依存が戦争を抑止すると信じる――故にその制裁にも反対する。

さて置き、非常に逆説的ではありますが、このノーマン・エンジェルさんの理論の正しさを「逆から」見ると、経済的損失を恐れることが(まさに今回のロシアのような限定的な)軍事行動抑止に際しての効果的な経済制裁の包囲網作りに失敗してしまう可能性をも内包してしまうんですよね。もし仮に相互依存によって戦争を避けようとするならば、同じ理屈で経済制裁をやる側からも逃れようとするのは当然の帰結ではあるでしょう。


経済相互依存の両義性。(完全ではないにしろ)戦争自体をそれなりに抑止する代わりに、戦争抑止の行動さえも抑止する。
この辺は愉快なジレンマではあるよなぁと。

ノーマン・エンジェルさんの『大いなる幻想』の二面性 - maukitiの日記


いつまでたってもミュンヘンの悪夢が忘れられない - maukitiの日記
ということでこちらも以前の日記でネタにしたように。やっぱり今回のドイツのヘタレ具合それ自体が悪いというわけでは絶対にない。むしろドイツ自身の立場を鑑みた場合、それは現実的解答としては正解ですらあると評価はできてしまうんですよ。
――クリミア併合から7年経っても尚、ロシアを止めることも、あるいはガスのロシア依存を続けたことそのものが失敗である。
何でこんなになるまで放っておいたんだ!(ガラガラ
そう考えると、ドイツの行動の不思議さというのは「今」のそれよりは、むしろ何でここまでロシアのガス依存を続けて来てしまったのか、ということの方が考える価値のあるテーマなのかなあと。
おそらくドイツは本気で善意から脱原発や脱石炭へと邁進していたのかもしれませんけど、それが原因で今ロシアに良いようにされている、という現状は色々と示唆的ではありますよね。
いやまぁそんな偉そうなことを言っておいて、例えば私たちだって対中国に危機があると知っていながら行動を(当然様々なしがらみから)変える事ができていないんだからドイツのことばかりを笑えないよね。


脱原発ウクライナのどっちの方が重要なんだと、いぢわるNATOたちに二者択一を詰められているドイツさんかわいそう。
でもそうなる危険性があったのは解っていたのでやっぱり問題を放置し続けてきたことが問題の本質だよね。現代のミュンヘン会談っぽくてやっぱり端から見ている分にはクッソ面白いです。
以前から何度か、世界最大の排出量である中国が安全保障上の問題とそれを取引にするようなことをしたらどうするのか、というネタを書いたりしましたけどまさかロシアの方で先に起こるとはなあ。


私たちはここでドイツのことを笑っていますけども、もしかしたら実際にチキュウの為にはドイツの選択肢の方が正解なのかもしれない。
ウクライナ脱原発や脱石炭に必要なガスの為に――ひいては地球環境の為の犠牲となるべきなのだ。
ガスを優先するのはドイツの為の選択肢なのではない、世界の為の選択肢なのだ、なんて。
ドイツが今やっている事ってつまりそういうことだよね。そしてそれは全く説得力のない議論というわけでもない。


グレタさん――は子供なのでいいとして、気候変動問題に熱心な大人の皆さんはいかがお考えでしょうか?
ということが実は今回の件で副次的に問われているんじゃないかと思うんですよね。


そしてそれは温室ガス排出量が世界最大の中国を横で見ている私たち日本人もまったく他人事ではない。
気候変動問題と安全保障問題が交差するとき、物語が始まる。
どっちか一方だったら話は簡単だったのにね。
みなさんはいかがお考えでしょうか?