とある冬の国の幻想殺し

『不可侵の国境』という現代世界の幻想が打ち壊されるとき。



【速報】米バイデン大統領「軍事侵攻の始まり」 ロシアに大規模経済制裁へ
ウクライナめぐり対ロ非難相次ぐ 安保理が緊急会合 写真10枚 国際ニュース:AFPBB News
米国務長官 露外相との会談「意味がない」露側に中止を伝える | ウクライナ情勢 | NHKニュース
気分はもう戦争
ここしばらくは何の因果か時間差の関係上ちょうど毎朝起きてからウクライナ情勢をチェックするのいいタイミングやん、と朝の習慣になっていた人も様々な方面で少なくなかったとは思いますけども、ついにそうした焦れる時期も終わり、悲しいことに話は簡単になってしまった。
失われた『完璧な大ロシア』を求めて - maukitiの日記
お前マジで『失われた大ロシア』求めてたのかプーチン……と我々が2月22日はネコの日だとにゃんにゃんしている間に答え合わせされてしまった感じ。
しかしなんだかんだと中国に配慮していたのか、結局オリンピック期間中はそうはならなかったことを考えると、最近では評判がずっと悪いオリンピックにも意義があったかもしれないね。
もう一生オリンピックやってれば良かったんじゃないかな。


しかしどちらにしてもオリンピックは終わり、もういまさら欧米の経済制裁なんかでロシア軍が止まるはずもなく。
今この瞬間は、力こそ全てである。





――ということでまぁこの期に及んでは所詮素人の僕がこれ以上何か愉快なことを言えるはずもないので他の日記にしようと思っていたんですが、かなり面白いネタがあったのでそちらで適当日記。
前澤友作氏 緊迫ウクライナ情勢を嘆く「宇宙から見たら国境なんてなかった」(東スポWeb) - Yahoo!ニュース
おそらく前澤さんはまったくそんなつもりはないんでしょうけども、しかし現在のウクライナ問題――ひいては現代の国際関係が根底から揺るがされている現状についての、本質をかなり突いた発言だと思うんですよね。

前澤氏は昨年の12月ロシアのソユーズ船に乗り、日本人として初めて国際宇宙ステーション(ISS)に滞在した。

 宇宙から地球を見た前澤氏は「宇宙から見たら国境なんてなかった。ロシアの友人達の苦々しい顔を想像する」と嘆いた。

前澤友作氏 緊迫ウクライナ情勢を嘆く「宇宙から見たら国境なんてなかった」(東スポWeb) - Yahoo!ニュース

「宇宙から見たら国境なんてなかった」
割と定番で陳腐と言えば陳腐な発言ではあるんですが、今それを言うのはセンスあるよなあと。
確かにその通りなんですよね。我々が素朴に確信しているはずの『国境』というのは、現実に何か形而下のものとして存在しているわけでは決してない。
島国である我々ならばギリギリ『島』というラインが見えるものの、それだって海上には厳然たる国境が存在しているわけだし。

「宇宙から見たら国境なんてなかった」

なので確かにその通りなんですよ。
国境は恣意的な概念であり、昔の誰かが勝手に決めたものである。
――しかしそのことは逆説的に、今でも誰かが思い立てば『国境』を恣意的に動かせてしまうという不都合な真実でもあります。
宇宙から見たら国境なんてなかいからこそ、実は今でも国境は誰かの妄執とそれができるだけのパワーで無理矢理動かされてしまう可能性がある。
「そんなやついねえよなあ!?」と必死に圧力を掛けていただけ。


確か長谷部先生の『憲法の境界』あたりで述べられていたと思いますけども、つまり国境が一度動くことを容認してしまうと、それは理論上無限に国境を移動させることまで容認できてしまう。
だって実際には国境なんてもともと存在しないのだから。
上記前澤さんのような善人は「宇宙から見ると国境が存在しない」ことに平和的関係を見出そうとしていますけども、実際には逆なんですよね。
むしろ国境が目に見えないからこそ、私たち人類はその歴史上においてほとんど常に直接的に間接的にそのせいで戦争を誘引してきたし、だからこそそれを避けるために理性ある私たちは何としても国境は動かしてはならない不可侵であるという意識をどうにか積み重ねてきた。
かくして現代世界ではまず国境を画定させておくことそれ自体が『平和』の大原則となっているわけでしょう。
21世紀の今だからこそ領土問題が流行る理由 - maukitiの日記
常に国境をめぐって争ってきた愚かな我々が、不幸な経験と歴史から学んだ叡智として。


ところがぎっちょんクリミアであんなことになってしまい、そして再び今度はウクライナ東部二州ですよ。まさか上記日記を書いた9年でこんなことになるとは。
プーチンは「国境は不可侵である」というリベラルな私たちがどうにかしがみついていた叡智を、見事に破壊しつつある。
それは実は文字通り幻想でしかなかったのだと。
だから実は前澤さんもプーチンさんも二人はまったく逆方向ながらも同じ事を言っているんですよね。

「宇宙から見たら国境なんてなかった」

故に、その次なる新たな国境は、プーチンが決めるとする。
 
 
それまで不可侵であると素朴に確信していた国境が動かされるとき、
私たちは見えないからこそそれは自由に動かせてしまうのだという不都合な真実を容認しつつある。かつてあった歴史と同じように。
今後は前澤さんやプーチンさんのように私たちもそれが幻想だったと正直に認め、もっとカジュアルに国境を踏み越え領土を獲ったり獲られたりするんでしょうかね。
19世紀かな?
 

私たちはその平和の大前提である幻想を守り切ることができるのだろうか。
みなさんはいかがお考えでしょうか?