ソ連は二度死ぬ

まさか2022年に再び「分裂するソビエト連邦」な絵を見られるとは思わなかったよね。


『サピエンス全史』のユヴァル・ノア・ハラリ氏、ウクライナ侵攻を受けてガーディアン紙に緊急寄稿。全文公開!|Web河出
ユヴァル・ノア・ハラリ先生のありがたいお話。

 突き詰めれば、国家はみな物語の上に築かれている。ウクライナの人々が、この先の暗い日々だけではなく、今後何十年も何世代も語り続けることになる物語が、日を追って積み重なっている。首都を逃れることを拒絶し、自分は脱出の便宜ではなく武器弾薬を必要としているとアメリカに訴える大統領。黒海に浮かぶズミイヌイ島で降伏を勧告するロシアの軍艦に向かって「くたばれ」と叫んだ兵士たち。ロシアの戦車隊の進路に座り込んで止めようとした民間人たち。これこそが国家を形作るものだ。長い目で見れば、こうした物語のほうが戦車よりも大きな価値を持つ。

『サピエンス全史』のユヴァル・ノア・ハラリ氏、ウクライナ侵攻を受けてガーディアン紙に緊急寄稿。全文公開!|Web河出

今回のウクライナとロシアの戦争は、『物語』=ナラティブの戦争と一部では言われていますけども、今回プーチンの当初の思惑とは全く逆の構図になっている。ロシアとウクライナは一体である、という神話を前提に侵攻したプーチンが結果として全く逆の結果を導いてしまっているのはホント皮肉なお話だよね。
ウクライナにとっての新たな国家神話の登場である。
世界は尚も「垂直に」分裂している - maukitiの日記
「ソ連人」たちと「ヨーロッパ人」たちが同じように見た華胥の夢 - maukitiの日記
プーチン「レーニンのばか!」 - maukitiの日記
ここで面白いのは、何もそんな『独立』騒動は今回初めて起きたわけじゃなく、それこそソビエト連邦崩壊時に既に起きていたわけでしょう。
バルト三国を筆頭に、アルメニアも、アゼルバイジャンも、ダゲスタンも、カザフも、タタールも、それぞれの自分たちの「ソ連人ではない」独自のアイデンティティを掲げ、独自の主権があるとして独立した。
最早我々はソ連人ではないのである。
一度は進んでしまったその時計をどうにか巻き戻そうとしたプーチンは、それを巻き戻すどころか更に不可逆な地点にまで進めてしまいつつある。


いくら呼んでもソ連は帰っては来ないんだ。もうあの時間は終わって、君も人生と向き合う時なんだ。
ソ連崩壊で起きたのは、単純に連邦というハードの崩壊というだけでなく、それぞれの民族が国家を超え手を取り合い『連帯』するというマルクス主義の幻想というソフトの終わりでもあった。
「ロシア人とウクライナ人は、兄弟なのだからそれでも国境を越えて連帯するはずなんだ」なんて。
しかしそうはならなかった。
バルト三国たちは既にEUNATOに加盟し、アゼルバイジャンは代理戦争を戦い、そしてウクライナではクリミア以来一層遠心力が止まらない。
その現実を認めたくないのか、あるいは確信犯として最後の砦であるウクライナを引き戻すためにプーチンは挙兵した。


かくして私たちはプーチンの妄執によって『ソ連崩壊』の再演を見せられている。
「我々はロシアと一体なんかでは絶対にない」とゼレンスキーが明言するように。
もう我々は上からの圧力によって連帯しているフリなどしないのだ、というソ連崩壊時の風景のような、二度目の喜劇として。
はたして今回は、私たちはこの激動を前回のように最低限の流血で乗り切ることができるのだろうか? ――今のウクライナを見れば一目瞭然のように、既に失敗しているだろうというと身も蓋もありませんけど。少なくともヨーロッパはその最悪の事態に再び備えようとしている。
良くも悪くもその歴史について死ぬほど考えてきただろうプーチンが前回の反省を活かすとしたら……。


みなさんはいかがお考えでしょうか?