リアリズムの先をさがして

鉄アレイで殴り合うと死ぬ我々が、鉄アレイで殴り合わずに済む方法をさがして。


プーチン氏、「欧州側がロシア侵攻を準備」とウクライナ侵攻を正当化 対独戦勝記念日で演説 - BBCニュース
良い意味でも悪い意味でも期待されていた5月9日の戦勝記念日に、プーの人が特に何も面白いことを言わなかったので別の日記にしようと思います。


ミアシャイマーの“悲劇”…なぜロシアや陰謀論者たちに付け込まれてしまったのか? ? SAKISIRU(サキシル)
というこで今回のウクライナでの『特別作戦』から、本邦でも陰謀論やQな人たちにとって大人気となったミアシャイマー先生のリアリズムのお話について。

このような厳しい見方をする理論を提唱しているミアシャイマーを、日本の右派や陰謀論者たちは「真正保守である」という。だが結論から言えば、ミアシャイマーの考え方は、一般的な「右派」や「左派」という政治志向の分類を超越したものだ。

なぜなら彼の関心は、アメリカが国際政治のパワーゲームにおいてうまく立ち回ることができるかどうかにあるのであり、国内政治がからむ右・左というイデオロギーには単純に分類できないからである。

ミアシャイマーの“悲劇”…なぜロシアや陰謀論者たちに付け込まれてしまったのか? ? SAKISIRU(サキシル)

奥山先生が言う通り、まぁコレが全てかなあと。
リアリズムの大家である彼の理論って、ある意味で――我々オタクにお馴染みのネタを持ち出すなら――「鉄アレイで殴り続けると人(国)は死ぬ」なことしか言ってないんですよね。
鉄アレイで人を殴ることの「是非」、あるいは鉄アレイで人を殴る「意図」、などについては理論の主題じゃないんですよ。
そしてそこから、もし相手が鉄アレイを持っていたら、殴られないように自分も鉄アレイを持つべきである、というこれ以上ないほどアナーキーミアシャイマー的な理論が生まれるわけで。
かくして、もしウクライナNATOに入れようとするならば、ロシアは抵抗すべきである、という単純な主張に行きつくことになる。その文脈にある是非や意図といった複雑な議論は無視されて。


しかし上記でも指摘されているようにそうしたアナーキーな世界観って、ほとんど全ての地政学や国際政治など国際関係の研究者やオタクな人たちにとっての知的根源であり出発点でもあります。
それは彼の理論に対してのリベラル派のような批判的ポジションでも同様で、「何故歴史上で、大国同士が鉄アレイで殴り合わないケースがあったのか*1」「ならば鉄アレイではなく、国際法や人道の罪が力を持つようになるためにはどうすればいいのか」などもやっぱりミアシャイマー先生のようなリアリズムを分析の土台として持っているわけで。


今回のウクライナの件では、国連憲章国際法上の正当性、ウクライナ各地での残虐行為の是非とその抑止、あるいは核兵器の扱いなど*2、そのリアリズムという分析の先にこそ考えるべき裾野が広がっている。
一方で、ミクロな個人的生活に追われている私たちが、まぁそんなこと考える暇がないだろうというのは概ねその通りなんですよ。
だからこそ大学にお金を出して賢い人たちに代わりに考えてもらうべきなんですけども――この話題は今ではセンシティブな話なのでヤメヤメ。

結果として、ミアシャイマーアメリカ率いるNATOの過剰な東方拡大に今回の紛争の根本的な原因を見てしまっていることから、単純な反米主義者や陰謀論者のような、表層的なわかりやすさを求める人々に対して、無用な論拠を与えてしまっているといえる。

ミアシャイマーの“悲劇”…なぜロシアや陰謀論者たちに付け込まれてしまったのか? ? SAKISIRU(サキシル)

ともあれ、「鉄アレイで殴り続けると人は死ぬ」という理論を見て、その行為が正当化されると考える人たちは、まぁ率直に言って……と思ったけど表層的な解りやすさを見る人たちにとってはそういうモノなのかもしれないね。
Ω<ミアシャイマー陰謀論の流行は、結局のところ『バカの壁』という養老先生の大ベストセラーなお話だったんだ。
ΩΩΩ<……な、なんだってー!?


ということで世界平和を本気で愛する人は、もし暇があるなら国境を越えて連帯云々よりも奥山先生の『大国間政治の悲劇』を読みミアシャイマー先生の理論を最初の一歩として、どうすれば国際関係において世界平和を実現できるのか考えてみればいいんじゃないかな。
論文も書けるし世界平和も実現出来て一石二鳥!
そんな暇が無いというながら……うん、まぁ、やっぱり、賢い人たちを支援してがんばってもらうしかないよね。


みなさんはいかがお考えでしょうか?
 
 

*1:有名どころではアメリカの勃興と、それまでの超大国であったイギリスの没落の関係など。

*2:ちなみに「鉄アレイで殴り続けると人は死ぬ」なミアシャイマー先生は、多極化世界では全国家が鉄アレイ=核兵器を持つべきである、とも言っているわけで。今回ミアシャイマーを持ち出す人たちが割とシャレになってないのは、核兵器保有問題でもまったく同じ理屈=自分たちに核兵器を持たせた責任は相手にある、という構図も成立してしまう。