すべてがクリミアになる

「あっ、これ進研ゼミ国際関係の教科書でやったところだ!」



【詳細】プーチン大統領演説 ウクライナ4州の併合を宣言 | NHK | ロシア
ということで堂々たる併合宣言があったそうで。

ロシアのプーチン大統領はモスクワのクレムリンで、日本時間の30日夜9時すぎから、演説を始めました。ウクライナ東部のドネツク州とルハンシク州、南東部ザポリージャ州、それに南部のヘルソン州の合わせて4つの州をロシアに併合することを一方的に宣言しました。

【詳細】プーチン大統領演説 ウクライナ4州の併合を宣言 | NHK | ロシア

前回も書きましたけども、まぁ21世紀にもなって『併合』が堂々と語られる時代になるとは思わなかったよねえ。
クリミアを生贄にしておけばとりあえずなんとななるだろう、と私たち日本人含む楽観的に考えた人たちの末路とか言うと身も蓋もありませんけど。今って1939年だったのかな?



トルコ、ウクライナ4州併合認めず 国際法の「重大違反」 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
さすがにこれにはトルコさんもドン引き、というかまぁほぼ世界中の全国家が他人事ではない割と洒落にならない一線でもあるのは少し考えれば解かるお話でしょう。
21世紀の今だからこそ領土問題が流行る理由 - maukitiの日記
国境線のレコンキスタ - maukitiの日記
「北海道の権利はロシアに」を笑う者は「北海道の権利はロシアに」に泣く - maukitiの日記
当日記でも、時代の趨勢を読めていないKYな記事を書いて、まぁ2012年辺りまでは割と今更領土併合や国境線を動かすなんて愚行は誰もしないだろうと楽観的に考えていたのは間違いないんですよねえ。明らかに恣意的な『住民投票』をして領土併合を正当化できるのであれば、その要求と正当化には事実上際限がなくなってしまうから(故に人類はもうそんな愚行をしないだろう)、という歴史の叡智を進歩主義者らしく信じていた。
まぁその後はご覧の有様で、怒涛の展開が進んでいくわけですけども。進歩どころかこれまで少しずつ積み上げてきた戦後国際秩序という実績がご破算になりかねない事態に。


でも所謂『衰退する帝国』という国際関係論における頻出テーマとして見れば、こちらもやっぱりよくあるお話ではあるんですよね。
ソビエト連邦というかつての大帝国が流血が少ない感じで自壊してしまった故に、その反動が歪な形で抑圧されタイミングが遅れて表面化してきてしまっている。第一次世界大戦前のオーストリア・ハンガリー帝国オスマン帝国の事例のように、それは当時の国際システムにしばしば破壊的な存在となるんですよ。
今回のロシアによるウクライナ侵攻も、まぁある意味ではそんな教科書的展開そのまんまだと言えるわけで。


ということで今回の件って改めてみると、帝国の衰退が引き起こす騒乱によって既存の国際システムまでもが動揺する、というまったく教科書通りの展開になっているのはまぁ皮肉なお話だよなあと。
『歴史の終わり』とは一体何だったのか。いや、フクヤマ先生も言っているように、リベラルな自由民主主義政治体制によって『歴史は終わるべきである』という願望だからセーフか。
民主主義国の人口、世界で3割未満に 新興国が離反: 日本経済新聞
この辺のニュースも、単純に民主主義政治体制の没落というよりは、むしろ一連の国際システムの動揺を受けた結果ではあるのでしょうし。
まぁそれは間接的にはアメリカの撤退と中国の台頭と、そしてロシアの修正主義的行動の帰結ということになるんでしょうけど。


西側からの現代版レンドリースが続き、ウクライナがこのまま併合された領土を取り戻すことができれば話は簡単なんですよ。
――しかし、それにはロシアの核兵器という大問題を避けては通れない。
少なくともNATO介入を間接的に抑止しているという時点で役に立っていのは間違いなかったのに、そこに更に領土併合というラインを越えてしまったせいで、それは単純に核の使用か不使用という構図を越えて、「国家防衛において核抑止がどこまで有効に機能するか」という核兵器の根本的な存在意義を問われる局面にすらも足を踏み入れつつある。
まぁそもそも大戦後の国連を中心とした国際秩序って、ほとんどそのまま核兵器クラブの集団安全保障体制だったわけだから仕方ないよね。
国連システムが揺らぐということはほとんどそのまま核兵器システムが揺らぐと同義でもある故に。


幸か不幸か、現代に生きる私たちは『衰退する帝国』というこれまで人類史では何度もあったイベントをリアルタイムで見ているだけでなく、『(核兵器を持つ)衰退する帝国』という人類史上初めてのイベントを目の当たりにしつつある。
もし衰退する帝国が核兵器を持っていたら、……一体何をしですかすのだろうか? なんて。
結局ウクライナが併合された領土を取り戻せず、核兵器によって不当に併合した領土を防衛できることがもし証明されてしまったら……。
あるいはソ連の時のように「あの」ロシアでさえ結局核兵器を使えないまま終わってしまったら……もしかしたら『核なき世界』という理想郷に近づくのだろうか? 


衰退する帝国がもたらす、国際システム(国連と核兵器)の動揺について。
みなさんはいかがお考えでしょうか?