あなたが知らない誰かが信じている物語

みんなも自分にあったポケモン物語を見つけよう!



ドイツのクーデター未遂、陰謀論と極右共鳴 民主主義試練: 日本経済新聞
ドイツで面白い事件があったそうで。

2017年に謎の人物「Q」ネット掲示板に投稿を始め、米国を中心に拡散した陰謀論であるQアノン。「ディープステート(闇の政府)」が世界を操っているなどと主張し、著名人を小児性愛者と決めつけたり、新型コロナウイルスに関する偽情報などを広めたりしてきた。

トランプ前米大統領の支持者らが賛同し、21年1月に起きた米連邦議会占拠事件にも信奉者が加わっていた。

ドイツのクーデター未遂では、極右勢力「ライヒスビュルガー(帝国市民)」が関与した疑いもある。独検察当局は事件の思想的な背景について「Qアノンのイデオロギーと帝国市民の物語からなる陰謀神話の集合体」と分析する。

ドイツのクーデター未遂、陰謀論と極右共鳴 民主主義試練: 日本経済新聞

これって割と2022年の現代世界の縮図って感じで興味深いと思うんですよねえ。アメリカもドイツも、そしてウクライナに侵攻したロシアを見ても。


2400年前にプラトンが看破したように、コミュニケーションの動物である私たち人間は今も昔も他人の物語によって様々な形で突き動かされていく。あるいは自分が理解している世界についての物語を使って、善意や悪意から相手をなびかせようとする。
それはただ事実かどうかが重要なのではなく、心を揺さぶるよくできた物語であればあるほど効果的なんですよ。
物語はどこに消えた? - maukitiの日記
これまでの日記でも何度か人間社会における物語=ナラティブのネタを書いてきましたけども、例えば上記日記でも引用しているユヴァル・ノア・ハラリが「人類を一つにするために 新しい物語を作る必要がある」と述べているようなポジティブ未来の為の物語であると同時に、それは物語によって社会が分断へと向かっていくネガティブな未来の可能性でもあるわけで。
一方で、まぁ今回のドイツの「Qアノンのイデオロギーと帝国市民の物語からなる陰謀神話の集合体」ってその後者ほとんどそのまんまでしょう。
つまりアメリカを中心に始まった社会の分断をもたらす陰謀論は、ただ世界中に拡散していくだけでなく現地ローカルの要素と上手く融合することでよりよく出来た『物語』となって人びとの心に入り込んでいっている。
その差を分けるのは単純に国民性というよりは、むしろこの物語の融合が上手くいった・不幸に上手くいってしまったからこそ、ドイツのように陰謀神話が力を持ってしまう点が大きいのでしょう。
例えば反ワクチンだった人がほとんどそのまま親ロシアな言説になびいてしまうように、政府やマスコミが大々的にウソをついているという物語においては、ワクチン同様ウクライナでもウソをついているのだとすんなり受け入れられる物語が出来上がってしまう。
あるいは現代ロシアがウクライナ戦争にまで至ったのは、西側への不信感とウクライナはロシアの一部であるというそもそもの物語の土壌がロシアに元々あったからなのだろうし。
私たちは、それぞれの場所で、それぞれ自分に都合のいい物語を信じて生きている。科学的な正確さや歴史的な事実というのは、しばしば、あまり重要視されない感じで。



ということで個人的に陰謀論な人たちを見ていて面白いのは、政府やマスコミなどの背景に作為的な陰謀という物語を見出すのはまだ理解できるとして、自分たちの信じるその陰謀論にもあるはずの作為的な物語を見て見ぬフリをしているところだと思うんですよね。
つまるところ、誰もが好きな物語を信じて行動している、という私たち人間の本質――それ自体は基本的にはまったく問題ない――をこれ以上ない程、陰謀論者自身の手で証明してしまっている。
もちろんこの世の全てを疑っていては、それは狂人の域に半歩入り込んでいるようなものであります。
故に私たちは結局、多かれ少なかれ、誰かが始めた物語を信じて生きている。
それこそがこの雑多な世界を理解する最もさえた方法である故に。


しかしそれはやっぱり今回のように、アレな物語を信じて行動してしまうことと表裏一体でもあるんですよね。
……やっぱ物語ってクソだわ! プラトン先生がナンバーワン!


『物語』になびいてしまう私たちについて。
みなさんはいかがお考えでしょうか?