思い出すのはかつての冷戦構造

なまじノーベル平和賞なんて取ってしまったものだから、殊更に批判されてしまうオバマさんとアメリカさんのお話。


アフリカ少年兵をオバマが容認 | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

 アメリカのオバマ政権は10月25日、アフリカで少年兵を動員している国に対する制裁の撤回を表明した。少年兵を使い人権上問題があったとしても、そうした国々と新たな軍事協力を結ぶための措置だという。
「チャド、コンゴ(旧ザイール)、スーダン、イエメンの4カ国に対して(少年兵使用防止法を)適用しないことを、アメリカの国益のもとに決定した」と、バラク・オバマ大統領はヒラリー・クリントン国務長官への覚書に記した。

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で、そんなオバマさんが「ノーベル平和賞(笑)」などと揶揄されてしまうと。悲しいお話です。
まぁどう見ても対中国体制の一環ではありますよね。中国がそうであるように、今回のように、アメリカさえもある程度まではなりふりなど構っていられなくなっていくと。

皮肉を込めて「偽りの平和」と呼ばれたもの

さて置き、「アメリカの国益」の名の下に少年兵問題だとか人権だとか民主主義などがまさに脇に追いやられる構図、そうしたものが珍しいものなのかと言うと、そんな事全くないわけで。つまり歴史的には殆どの場合において、そんなものはいつだって脇に追いやられてきた。まさに現在の中国の(相手を選ばない)援助外交が示すように。
むしろそうした単純な国益追求が下火になったのは、まだ私たちの記憶に残る冷戦「以後」の話でしかない。かつては反ファシズムの名の下に共産主義者とも手を組んだし、あるいは反共産主義の名の下に独裁者とも手を組んだ。古典的なバランスオブパワーな時代。
昔は、というよりもいつだって、民主主義だとか人権だとか少年兵問題に構っていられるゆとりなど無かったから。だって昔はそれどころじゃなかったから。


冷戦構造下にあったかつての「偽りの平和」はこうして形成されていた。
つまり反政府運動などによる相手陣営への転向や、あるいは周辺国友好国への悪影響を防ぐ為に、道徳的なイデオロギーなどよりも、もっと単純に安定した政権を友好国に求めていた国際関係。冷戦後の状況が教えるように、「反自由主義の砦」や「反共産主義の砦」と呼ばれた多くの国家たちはその後民族紛争や宗教紛争や政治的混乱に陥ってしまったわけだけど、何故かってそれまではアメリカとソ連の強力な頚木・偽りの平和の元にあったから。
冷戦時代は、民族自決とか宗教摩擦とか政治体制だとか、ぶっちゃけそれどころじゃなかったから。

一極構造の功罪

その是非はともかくとして、おそらく上記の4ヶ国のような国は再び偽りの平和に向かうんだと思います。それは民族自決や少年兵使用防止にとって長期的にはマイナスの要素となるかもしれない。でもそんな贅沢なことを言っていられる状況ではなくなってしまうかもしれないから、と、アメリカは考えている。


結局の所これは中国が始めたゲームではあるけれども、しかし挑戦されたアメリカにこれを拒否する選択肢はない。そしてその対応としてかつてと同じような手法を取ろうとしている。現在の中国のそれと同様に、とまではいかなくても、例え多少「悪い国家」であってもより影響力を残せるような外交姿勢に。そうした伝統的な手法以外に解答を見出せないから。


おそらくその意味で、アメリカが無邪気に唱えていた、あるいはアメリカの傲慢さの象徴であると批判されてもいた、より道徳的な価値観を普及させようという「リベラルな介入主義」などは、少し前にイギリスの国際戦略研究所の2010年版『戦略概観』*1でも言っていたように、今後はやっぱり減少していくのでしょう。
そんな「パクス・アメリカーナ」のようなものと、冷戦構造のような勢力均衡下での「偽りの平和」、どっちの平和がまだマシかと聞かれるとまぁ悩ましい所ではありますよね。