原発のみらい

原子力発電所のゆくすえについてのお話。


Opinion & Reviews - Wall Street Journal
「日本の行方」部分はともかくとして、今回の東北地方太平洋沖地震を受けて世界的な反原発な流れはこの先どう向かうことになるのか、について。色々諸事情あって考えさせられるお話ではあります。

 そこで、一つ、疑問が浮かぶ。世界には、発電に使えるガスと石炭がある。原子力は、政府の多くの支援を必要とする温室植物だ。環境団体は、おそらくいわれなき道徳的権限によって、炭素排出抑制こそが人類最大の課題だと長年主張してきた。風力と太陽エネルギーでどうにか差を穴埋めできると主張するという、現実逃避を選択していない環境団体は、化石エネルギーの唯一の代替エネルギー原子力であることを冷静に認識してきた。

 こうした環境団体は、一夜明けたらどういう立場に立っているのだろうか。温室効果ガスの二大生産国であり、急成長中の中国とインドには、計画中や建設中の原発が何十基もある。民主国家であるインドは、日本の震災への政治的反応によって方向転換する機がとりわけ熟している。環境保護主義者は、もし自らの地球温暖化のレトリックを信じているとすれば、現実主義的な原発支持をやはり表明するのだろうか。それとも、資金調達が容易でメディア受けする反原発のパニックに加わることになるのだろうか。

 われわれにはすでにその答えが分かっているのではないか。世界が二酸化炭素排出量の協調的削減に取り組むというありそうもない事態においては、原子力が鍵だった。良くも悪くも、この可能性が今や消え去ったと考えるべきだろう。

Opinion & Reviews - Wall Street Journal

(勿論福島原発等に住んでおられて非難区域に住んでる人たちにとっては全く同意できない話ではあるんだけども)しかし実際の所、それ以外に住んでいる日本の人びと、そして世界の人が気にしている点ってそういう所ではあるんですよね。
個人的にも(関東在住の私としても)今回は少なくとも制御棒がきちんと動いた以上、特にそうした放射線物質の飛散濃度については概ね楽観的ではあるんだけど、しかし今後の原子力発電そのものに関しては悲観的にならざるを得ない。


1000年に1度と言われるマグニチュード9の地震に耐えそして10m近い津波に襲われたにも関わらず、「最悪」の事態(臨界)は免れる事はできた。とても素晴らしい技術の勝利だと思います。
しかしそんなことは、今回避難することになった原発の地元の人にとっては、まるっきり、なんの慰めにもならない。
故にそうした地元住民が最早原発に当然の不信感を抱くのは避けられないことであるし、そして当然の帰結だと思います。原発はこれまで反原発運動家のような人々が煽ってきた最悪の結果は避ける事はできたんだけれども、しかしだからといって完全にその被害を食い止める事ができたわけではなかった。まさに今回の事態のように。
でもだからと言って「1000年に1度と言われるマグニチュード9クラスの地震と10m近い津波」に耐えられる人口建造物がぽんぽん建てられるかというと、まぁ今の人間の技術的にはなんとか不可能ではないかもしれませんけど、全くコストに見合いませんよね。世界でも最もその建築基準が厳しいと言われる日本で無理だった以上、他のどの国でもそれは無理でしょう。


つまるところ、ただでさえ難しかった「原発を作らせてください」とお願いする行為のハードルが果てしなく高くなってしまった。
上記WSJでは「良くも悪くも、この可能性が今や消え去ったと考えるべきだろう」なんてかっこいいことを言ってますけど、それはまぁつまり(近隣住民にとっての)100%安全なんて不可能だということを、日本の現状が証明してしまった。少なくとも現在の技術力では。
だからおそらく今後は、民主的な政府であればあるほどに、原子力発電所を作ることは不可能になっていくことでしょう。だってその地元住民の賛成を得られないから。だから逆に、あまり民主的ではない国の方が、そうした声を強権で押えつけやすいので原発嗜好は強まっていくんだと思います。まぁ核兵器の問題もあってすんなりとはいきそうにありませんけど。
しかし皮肉な話ですよね。まさに民主的な国家だからこそ、脱化石燃料エネルギーを目指して原子力発電の夢を追いかけてきたわけだけども、しかし民主的な政府であるからこそ、その不完全性故の問題を克服できなくなってしまった。勿論政治的に見ればそれは許容できる範囲のリスクだと言えるんだけど*1、しかしだからといって今回の日本の原発の顛末を当分の間忘れることなんてできるはずがない。


ということで、(風力と太陽エネルギーでどうにか差を穴埋めできると主張するという)現実逃避しない範囲で考えるならば、今後日本のとりうる解決策としては、

  • 人のいない地帯に原発を造る。(万馬券
  • 上記プラス無理矢理金で解決する。(本命)
  • 火力発電でがんばる。(対抗)
  • 水力発電でがんばる。(大穴)

辺りでしょうか。事実上二択ですけど。日本に近場で人のいない土地なんてそうそうないし、水力はつまるところダムを造れという話になるわけで。どれもロクでもない結果になりそうでげんなりします。そしてそれは日本だけじゃなくて全世界的にも同様であると。


そういえばよく今回の福島原発チェルノブイリのそれと同列に語る人が居ますけど、まぁバカらしいなぁとこれまで見ていたんですが、よく考えるとそれってある面では正しい部分もあるんですよね。
その放射線被害についてはまったく比べ物にならないけども、しかしその「各国の原子力政策への影響力」という点で。

*1:「1000年に1度と言われるマグニチュード9クラスの地震と10m近い津波」という事態を想定して造られている現代建築物なんて事実上存在しないように