第三者仲介にもっとも必要とされる性質

アナン「国連のバカ! もう知らないっ!」


アナン・シリア特使が辞意、安保理各国の「非難合戦」批判 写真3枚 国際ニュース:AFPBB News
ということでアナンさんがついに堪忍袋が限界だったらしいです。
しかしまぁやっぱり一つの真理として、特に国際関係における『第三者による仲介』というのはその背景に圧倒的なパワーという担保がなければ絵に描いた餅でしかない、という極当たり前のお話が証明されてしまっただけですよね。結局のところ、今回のアナンさんが目指したような『仲介者』というのは誠実さや中立性といった要素だけではなく、もっと身も蓋もなく「両者に約束を守らせるだけのパワー」が無ければ何も決めることなどできないのです。


それがあってはじめてその仲介者のポジションに説得力が生まれるのです。だってそれが無ければどちらも大人しく言うことを聞くわけがないじゃないですか。
よく利害関係の薄い紛争地帯で日本が(例えば中東和平などで)そうした仲介者になるべきだ、なんてことを仰る人が居ますけど、しかし日本にはそうしたパワーという背景がない以上どこまでいってもそれは現実にはありえないのです。逆説的にしばしばアメリカがそうしたポジションに立つことになるのは、やっぱりそうしたパワーの背景があってこそ、という理由が最も大きいからなわけで。まぁ広義のパワーだと経済力も含まれるので、札束でぶん殴るというやり方もあるにはありますけど。
そこで第一に必要なのは『誠実さ』などではなく、紛争当事者たる両者に約束を守らせるだけの強制力の背景となる『パワー』なのです。
この構図において悲しい点は、私たちの生きるこの世界では、その誠実さよりもずっとパワーの方が稀少資源であるという点にあります。もちろん誠実さだけでもパワーだけでも駄目だけど、しかしどう見てもパワーを持つプレイヤーの方が少ない。更には誠実さを偽るよりも、そのパワーを偽る方がずっと難しいのだから。故にその仲介者たる能力と資格のある人も稀少となってしまうのでした。

 スイス・ジュネーブ(Geneva)で急きょ記者会見したアナン氏は、国連安全保障理事会(UN Security Council )での「絶え間ない名指しの非難合戦」によって、自らが仲介した6項目の停戦案の実施が妨げられたと非難。「私は当然得られるべき支援を全く得られなかった」と苦言を呈した。停戦案は4月12日から政府と反体制側の双方が停戦すると定めていたが、シリアで停戦が実現することはなかった。

 アナン氏の「名指しの非難合戦」批判にもかかわらず、ジェイ・カーニー(Jay Carney)米大統領報道官はロシアと中国が3つの対シリア決議案に拒否権を行使したことを非難。一方、ビタリー・チュルキン(Vitaly Churkin)露国連大使は、ロシアはアナン氏を強力に支援してきたと反論し、英ロンドン(London)を訪問中のウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)露大統領は「大変残念だ」と述べた。

アナン・シリア特使が辞意、安保理各国の「非難合戦」批判 写真3枚 国際ニュース:AFPBB News

かくしてアナンさんは結局最後までそれを用意できなかったからこそ当然の帰結として失敗した。パワーがないことを知りつつも誠実さだけで突撃したアナンさん。
まぁ安保理決議という背景の無い国連特使に一体何が出来るのか、というのははじめから言われていたので、それでもドンキホーテばりに立ち向かっていったアナンさんを当初から褒め称える声と同時に「バカなことやってるなー」という冷めた見方も強かったのでした。そして結局そのパワーは最後まで用意されなかった、だからこそアナンさんも「国連のバカ!」と捨て台詞を吐いてしまったんでしょうね。
おつかれさまですアナンさん。貴方の努力と献身は――おそらく努力は尽くしたという欧米の都合の良い建て前として――記憶に残ることでしょう。


しかしロシアと中国の押せ押せの姿勢と、その一方でアメリカとヨーロッパのやる気のない態度が、見事に拮抗しているのを見るとまぁやっぱりコイツらわざとやっているんだろうなぁと思ってしまいますよね。アメリカは大統領選挙があるし、ヨーロッパは経済問題がまたもやクライマックス一歩手前だし、そしてロシアや中国はリビア教訓と今後の中央アジアへ与える余波を考えると絶対に引くことなんてできない。かくして、欧米はこれ以上押す気がないし、そして中露は下がる気がない。見事すぎる膠着状態であります。もしどちらも押せ押せだったり、どちらも腰が引けていなければこうも綺麗に膠着することなんてなかっただろうに。――となると残りは第三勢力たるトルコやイランやアラブ連盟やらなわけですけど……ものすごくロクでもないことになりそうでこわい。
これまでも何度か書いてきましたけど、やはりシリアこそが現代国際関係におけるパワーバランスの均衡点であると。
「パワーの真空地帯」あるいは「台風の目」のようなもの。やっぱりそれは誰も見ていない所だけではなく、まさにこうして『中心点』だからこそ、ある種の無風状態が完成してしまうんだなぁと。


ともあれ、これでシリアは次のステージに突入することになるのでしょう。事実上の内戦状態から、完全な内戦状態へ。まぁ延々と虐殺が続く(もう二万人越えと東日本大震災のそれを越えている)くらいならさっさと内戦なりなんなりで決着をつけた方がマシかもしれない、と言うことは出来るのかもしれません。しかしそれもリビアの事例のように「決着が着けば」の話でありますよね。介入が望めない以上、このまま終わりなき内戦に突入してしまう可能性もやっぱり結構あるわけで。
で、そうなると噂されるシリア軍の化学兵器やらの問題へと繋がっていくと。個人的にはここら辺り――更にもう一つ次のステージに行くまで、この内戦状態はやっぱりまだ無風のまま続くんじゃないかと思っています。


がんばれシリア。