『銃規制』議論によって追い詰められるオバマさん

子供の命は成人のそれよりも重いから仕方ありませんよね。


米国で銃規制のオンライン請願書に15万人、最多記録を更新 写真4枚 国際ニュース:AFPBB News
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/36782
ということで正直海の向こうでは「日本の選挙」よりもずっと大きなニュースとなっているアメリカのあれ。こちらと違ってあちらでは「人が死んでんねんで!」というお話でもあるので仕方ないのかもしれませんけど。まぁそれを言ったらシリアとかの方がよっぽど以下略なので以下略なわけですけども。


ともあれ、しかしオバマさんは見事に避けられない難題を突きつけられることになっちゃったじゃないかと。これまではなんとか巧妙に見ないフリを続けてきた『銃規制』の議論について。先日も少し書きましたけど、正直こうなるのが嫌で選挙争点にするのを避けてきたのに、しかし見事にオバマさんが無視できない状況が生まれてしまった。
もちろん今回の事件は殊更に悲劇であったのでしょう。既に銃乱射事件というものに「慣れ」つつあったアメリカ国民さえも、大きなショックに叩き込んだ小学校での乱射事件。子供がその標的になってしまった。
そうは言っても、大統領本人の意思はともかくとして、特に『崖』の迫る現状においてはおそらく彼の周囲の人たちは余計なことをしないでくれと願ってそうではありますけども*1
オバマのアメリカから独立したい | アメリカ | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
ただでさえ政府機能をめぐる役割――「大きな政府か?」「小さな政府か?」で燃え上がりまくっていると言うのに、それ以上にナイーブな問題に手を突っ込まざるをえなくなってしまっている。


以下、かなり大雑把なそもそも論について。
身も蓋もなく言ってしまえばこの問題って、現代アメリカにおいて尚『武器を持つ権利』という概念そのものが未だに何の合意も得られない、という端から見ればまったく理解のできない異常な状況にあることが根源にあるわけですよね。

規律ある民兵は、自由な国家の安全にとって必要であるので、 人民が武器を保有し、携帯する権利は、これを侵してはならない。

200年以上脈々と生き続けている憲法修正第二条。武装する権利。
それは文字通り1791年以来ずっと、憲法修正も、法的解釈も、連邦最高裁判所の判決も、ほとんど一貫してスルーされてきたわけです。これまでにもし一度でも規制派が主流となっていれば、現在の状況は全く違っていたかもしれない。実際、合衆国憲法はこれまで何度も改正されてきたんだから。
――しかし、結果として見れば、この権利についてはそんなことが一度も起きなかったのです。
だから、この銃規制をめぐる議論における前提条件さえ、そもそも整っていないのです。

 請願ページは、全米ライフル協会(National Rifle Association、NRA)などの「強力なロビー団体が、武器携帯の権利を認める憲法の元来の意図を超えた武器所有を容認させている」と指摘。「よって、議会は定められた法規に従って行動し、憲法修正第2条が意図した目的を逸脱した武器保有がなされているという現実に対峙(たいじ)するべきだ」と訴えている。(c)AFP

米国で銃規制のオンライン請願書に15万人、最多記録を更新 写真4枚 国際ニュース:AFPBB News

そもそもその「憲法の元来の意図」さえも合意できていない。いわゆる『州権説』対『人権説』について。

  • それは『民兵』を対象にしたものであって市民の武装を容認したものではない派
  • それは連邦政府専制を見張る為に不可欠な個人の権利である派*2

その「憲法の元来の意図」とは一体どちらを意味しているのか? そもそも民兵って誰のことだ?
もちろん規制派は前者を支持するし、そして反対派は後者を支持する。
かくして1990年代までは概ね、1934年の『合衆国対ミラー事件*3』という(どちらかというと)州権説寄りな判決を基にして規制派がやや優勢にあったわけですが、しかしあの9・11などによって流れは逆転してしまい、米国民主党も銃規制問題から距離を置くようになり、そして現在へと至るわけです。まぁかなり適当なまとめですけども。


まぁなんというか、この絡まりまくった糸をほぐすことができれば、それこそ歴代大統領の中でも最も偉大な業績を残すことができるだろうと言っても過言ではないでしょう。実際、これまで歴代大統領は「誰も」それを成し遂げた人は居ないんだから。
その歴史の積み重ねって、逆説として、悲しいほどにその困難さを際立たせてしまいますよね。ところがそれに直面せざるを得ない状況に陥りつつあるオバマさん。正直ものすごく政治的な死地に追い詰められている感。
いやぁこうした事情を考えると「さっさと規制すればいいのに」なんてとても簡単には言えません。


がんばれアメリカ。

*1:「今日はその日でない」と銃規制議論で米報道官 : 国際 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

*2:だからこそその『武装する権利』は小さな政府を望む人たちの中心教義でもあるわけで。

*3:United States v. Miller - Wikipedia