「愛すべき警察」と信じる人びと

日本とアメリカに共通する無邪気な伝統的社会信仰の一つ。


http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42443
アメリカの警察制度って問題一杯だよね、という評論。まぁ同意できるお話ですよね。この辺は日本の刑事司法制度の遅れっぷりと、実は根っこは同じだったりするのかなぁと。つまり警察への無邪気な信頼感が、少なくとも世論においては多数派である故に改革の必要性を叫ぶ声は大きな流れにならない。

 米国の黒人は、刑事司法体系が自分たちを守るのではなく、自分たちにとって不利に働いていると感じている。米国の白人のおよそ59%は警察を信頼している。だが黒人では、その割合は37%にとどまる。この事態は深刻だ。法の執行に不信を抱く人種グループが存在すれば、社会契約が損なわれる。
 しかし、前述のような残酷な事件を吟味するにあたっては、また別の視点も存在する。国家による過剰な暴力の使用という問題である。

 この問題にも複雑な原因があるが、その大半は改革で改善できる可能性がある。米国の法執行制度がほかの先進国と比べてどれほど気まぐれで暴力的であるかを、米国民の多くは全く認識していない。制度を改善することで、米国は、今よりも安全で、黒人と白人の双方に公平な国にできるだろう。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42443

黒人の皆さんが嫌うのは歴史的に見ても当然の帰結ではあるでしょう。今でこそ表向き「無いことになっている」差別が「公然と」されていた時代ですら、まだ生きている人の記憶に残っているレベルの昔話でもあるわけで。まぁこんな国に人種差別がどうこう言われるとか死ぬほど愉快なお話であり以下略。
――ともあれ話を戻して、でも、一方で平均的なアメリカ(白)人って警察というか法執行人というか秩序を守るヒーローが大好きなんですよね。
それこそかつてアメリカにあったヒーロー象でもあるテキサス・レンジャー*1な「追いかけて、とっつかまえて、裁判にかけ、有罪にして、絞首刑にする」というのは所謂古き良き典型的なアメリカ人が好む法律尊重主義な風景でもあるわけで*2。本邦でも「悪者をやっつける!」正義バカなアメリカ人像としてしばしば戯画的に描かれたりしますけど、あれってもう少し正確に言えば「(法に則って)悪者をやっつける!」でもあるんですよね。そこでやっつける現代版正義のヒーローと言えば、警察でありFBIである。秩序を愛し、故に憲法を愛し、故に法執行者を愛する。見事な三段論法。
一方で同じく「町のお巡りさん」を愛すべき原風景として持つ私たち日本人。
まぁ別に信頼感を寄せること自体はそれはそれでまったく構わないんですが、しかし同時に伝統的価値観から生まれる空気が改革の壁となってしまうことも事実なんですよね。以前からずっとその必要性が叫ばれながらなかなか進まない日本の取り調べ可視化問題然り、あるいは上記リンク先で言われるようなアメリカ特有の軍並みの大火力を志向する警察文化然り。



徐々にそうした価値観は薄れつつあるとはいえ、しかしそれでも尚、警察に対する伝統的価値観からくる素朴な信頼感と言うのはまだそれなりに残っていて、故に日本でもアメリカでも、その信頼こそが改革を遅らせる要因になっているのではないかと思います。


みなさんはいかがお考えでしょうか?

*1:テキサス・レンジャー - Wikipedia

*2:同時にそんな古き良きテキサス・レンジャーといえば、黒人やら先住民にとってはまさに「権力の悪用」の象徴でもあったわけですけど。