「ヨーロッパの平和」を目指した人たちの覚悟が問われるときがやってきた

大きな政治連合は「21世紀の戦争と平和を決する問題」を解決できるだろうか?




ロシアが軍部隊増強で緊迫 ウクライナの最前線を取材 - BBCニュース
ロシア、ウクライナNATO加盟確約撤回を要請 EUは侵攻なら代償と警告 | ロイター
ということで秒読み体勢に入っているロシアとウクライナであります。
この問題ってほとんどそのまま欧州連合の運命の瞬間という感じで、まぁ個人的にポップコーンがとまらないんですよね。
しかしすっかり『戦争』に対するハードルが下がった世界になってしまいました。後世の歴史ではその転換点は一体どこからだと指摘されるのでしょうね。
アメリカが始めたアフガニスタンイラク
それともヨーロッパが始めたリビア
あるいは欧米が見捨てたシリア?


そのロシアの目的としては、とりあえずまぁいつものロシアと言えばいつものロシアでもあり、

ロシア外務省が発表した声明によると、ロシアは定期的な防衛協議開始のほか、ウクライナNATO加盟に対しロシアに実質的な拒否権を与えることなどを提案した。

NATOウクライナを加盟させ、ロシアを標的とするミサイルシステムを同国に配備する方向に動いているとし、「こうした無責任な行動は、ロシアに対する容認不可能な安全保障上の脅威となり、欧州における大規模な紛争に至る、深刻な軍事上のリスクが誘発される」と警告。「欧州安全保障の根本的な利益のために、『ウクライナジョージアは将来的にNATOに加盟する』とした08年の確約は、正式に撤回される必要がある」とした。

ロシア、ウクライナNATO加盟確約撤回を要請 EUは侵攻なら代償と警告 | ロイター

一貫していて「緩衝地帯」を奪うべきではない、と。
まぁ少なくともただ『平和』を志向するだけならば一理ある主張ではあります。それこそ歴史的にというか冷戦時代には、実際にソ連にとっての緩衝地帯でもあったわけだし。
ただ、ロイターの記事でも言及されているように、それは緩衝地帯当事者=ウクライナの意向を無視した横暴なやり方だと言うしかない。

これに対し、NATOのストルテンベルグ事務総長は、NATOの姿勢は変わらないと強調。「どのような安全保障体制に属したいのかを含め、あらゆる国が自国の道を選択する権利を有することは基本原則だ。NATOウクライナの関係を決定するのはNATO加盟30カ国とウクライナであり、他の国ではない。大国が影響力を持ち、他の加盟国の行動をコントロールできるようなシステムをロシアが再構築しようとしていることは容認できない」と述べた。

ロシア、ウクライナNATO加盟確約撤回を要請 EUは侵攻なら代償と警告 | ロイター

大国の勢力均衡を最優先とし、小国を犠牲にするような『平和』を「再構築」するべきではない、と。
まぁ19世紀じゃあるまいし、文明的な現代人であればそういうポジションを取るしかないよね。




一方で、大国間の平和のためには中小国は犠牲になるのもやむなし、というヘイワゲンリシュギな人たちが本邦にもいっぱいいそうですけど。
<社説>ウクライナ危機 衝突回避へ対話重ねよ:東京新聞 TOKYO Web
うーん、明治維新の頃のようなかつての日本にあった危機感を思い出すと生暖かい気持ちになるよねえ。

ロシアの国際問題専門家のトレーニン氏は、ソ連が核ミサイルを持ち込んだ一九六〇年代のキューバ危機に絡めて「キューバソ連の不沈空母になるのをホワイトハウスが受け入れなかったように、モスクワから数百マイルの地に米軍が駐留してウクライナが不沈空母になることを、クレムリンも受け入れられない」と指摘する。
 九万人規模の部隊を動員して隣国を脅すロシアの振る舞いは容認できないが、米国もロシアの懸念に配慮すべきだ。両首脳が欧州の安全保障問題で協議を続けることで一致したのは朗報だ。

<社説>ウクライナ危機 衝突回避へ対話重ねよ:東京新聞 TOKYO Web

「米国もロシアの懸念に配慮すべきだ」確かにそれはそれで自分たちの平和は買えるしね。
ウクライナの人たち? ……中小国に発言権はないンで。
そうした身も蓋もない邪悪な本音をまさか社説で堂々と言ってしまうなんて、東京新聞はマジですごいと思います。まぁその分類でいえば確かに日本も大国側だもんね。
平和が欲しいならウクライナを差し出せばいいじゃない、なんて。



さて置き本題の欧州連合に話を戻して、ここで思い出すのはEU統合の立役者の一人でもあったヘルムート・コール首相の言葉でもあります。

欧州の中心人物の一人であるドイツのコール首相は、1996年に「国民国家は21世紀の大問題を解決することができない」と主張した。欧州の国民国家を解体し、一つの大きな政治連合に統合することは極めて重要であり、それは実際、「21世紀の戦争と平和を決する問題」になると。*1

EUとその両輪の片輪であるNATOが、どちら東方拡大の結果として国民国家の大問題を解決するどころか大問題を引き起こしているのはほんと皮肉なお話。


最初に書いたようにイラクアフガニスタンリビアやシリアならば、まだ世界の外縁部の話だからセーフだと見て見ぬフリをできたんですよ。
ところが文字通り自分たちの安全保障に直結――どころが対ロシアはヨーロッパにとって最重要の一つでもある――するところで問題を解決できないとなると、そもそも『欧州平和のための政治連合』という存在意義そのものに疑義が生まれるようになってしまう。

  • (既にクリミアでそうしつつあるように)中小国を再び緩衝地帯としてソ連に献上するのか、
  • あるいは戦争を覚悟してでも要求を拒否し、政治連合の主権と結束を守ろうとするのか。

いやあ、コール首相の発言から25年経って、ついに、とうとう、まさか「ヨーロッパの平和」を謳う欧州連合の真価が問われる光景が実際に見られるなんて。
プーチンさんも人が悪いよね。答えにくいだろう質問を解っててやるんだから。
ということでこのウクライナ問題ってヨーロッパの未来を決めるものすごい重要なターニングポイントになるのではないかと思うんですよね。




世界が平和でありますように。
(でもその平和ってどうやって? 中小国を犠牲にして? あるいは戦争をする覚悟で要求を拒否することで?)
欧州連合創立の父たちはもう何も言ってくれない。
 
 

*1:『西洋の自死』イントロダクション