いよいよヨーロッパのモラトリアムが終わるとき?

(終わらせることができるとは言ってない)



【オピニオン】EUが紛争解決で機能しない理由 - WSJ
WSJのウォルター・ラッセル・ミード先生による正論火の玉ストレート。

 ドナルド・トランプ米大統領の型破りで混乱を招くような、時に矛盾した外交政策の考え方が、いかに西側諸国の同盟関係を損なったかについて、多くの指摘がなされてきた。そうした批判は確かに一理ある。だが、国際舞台で効果的な策を打ち出せないEUの無能さはそれ以上に重大な懸念であり、はるかに修正が難しい。この世界に必要なのは地政学を重視する欧州だというフォンデアライエン委員長の主張は全くその通りだ。同氏にはそれを実現する戦略があるのかもしれないが、まだ公表はしていないようだ。

【オピニオン】EUが紛争解決で機能しない理由 - WSJ

はい、ロジハラ。
二度の大戦の反省から『地域の平和』を目指し、概ねそれを実現することができた欧州連合プロジェクトが、それ故に周辺の地政学的問題に当事者としてかかわる能力を喪失してしまっているのは皮肉なお話だよねえ。
使わない器官や筋肉が徐々に衰えてしまうようなお話。


ユーゴスラビア危機など冷戦後から始まりイラク戦争で決定的となった米欧関係の破綻は、アメリカがそんなヨーロッパを役に立たないと「衛星国」扱いしたことで始まったわけですけども、しかしこうした構図を見るとさもありなんとちょっと納得してしまうんですよね。
個人的に面白いと思うのは、特に所謂『ネオコン』な人たちこそが、こうした「ヨーロッパは頼りにならない(故にアメリカは単独主義でいくべきである)」言説の最右翼でもあったという点じゃないかと。
結果論として見れば、またもや(歪な形で)ネオコンが正しかったと証明されてしまうことに。
ネオコンの言葉に反発したはずの彼らが、まさにネオコンが主張した通りにその無能力さを晒してしまっている。

EU、英に対する法的手続き開始 離脱協定“無視可能”の国内法案審議受け|TBS NEWS
その割に対イギリスとなるとすんごい敏捷な動きを見せてしまうのが、このお話のまた面白い所なんですけど。
いや、いつものヨーロッパあるあるか。




ともあれ、まぁそれでもこれまでは冷戦終結による凪のような一時的な平和の配当を受け取ることで、そもそもその問題自体が少なかったことで割と大目に見ることができていたんですよ。
ところが21世紀の現代世界はますますカオスになること必定。
それはヨーロッパ周辺地域も例外ではない。
――いや、ロシアやトルコ、そして『アラブの春』後の北アフリカなど、むしろ大西洋側を除いたほとんど全てのヨーロッパ周辺地域で現地の国際関係に摩擦が生まれつつある。
最早彼らの『壁』の外には嵐が吹き荒れるようになってしまった。

 さらに、問題はプロセスだけではない。EUは自前の軍隊を持たず、外交部門は限られた権限しかなく、世界の大きなイベントを主導するためには加盟国の外交官と競い合う必要がある。EUで最も影響力の大きいドイツ、フランス、イタリアは、EU共通の外交政策の必要性についてしばしば力説する。だがいざとなると、相変わらず自国の立場や国益固執する。リビア内戦では対立する勢力をイタリアとフランスがそれぞれ支援。地中海東部の炭化水素資源を巡ってキプロスを二分し、ギリシャ側とトルコ側が所有権を争う問題では、フランスがギリシャ側を支援するため同海域に軍艦を派遣した。ドイツは約300万人のトルコ移民を抱え、レジェプ・タイップ・エルドアン大統領が再び、不安定化要因となる大量の難民を放出することを恐れている。そのため歩み寄りを仲介こそすれ、トルコを激怒させるような制裁措置には慎重な考えを示している。仏独両国ともボレル上級代表にこれらの紛争解決を委ねることは考えていない。

【オピニオン】EUが紛争解決で機能しない理由 - WSJ

それなのに彼らがやっているのはご覧の有様ですよ。



当日記でもずっと『民主主義の赤字』などを筆頭に欧州連合が抱える問題点を書いてきましたけども、今回のように全会一致ルールに縛られて外交問題で共同歩調を採れない件も同様に、「それでも」欧州連合は拡大中であるという一点でその問題を先送りにすることができていたわけで。
西欧の一部で始まったそれはついにウクライナやトルコといったその外縁部にまで「加盟か否か」を考えるラインにまで拡大した。
しかし、それも終わりつつある。
ウクライナはロシアとの関係でご破算となり、エルドアンのトルコはもう完全に加盟を諦めたように見える。最後に残っているのはめぼしい所はもうバルカン半島くらいでしょう。
――ということは、つまり、いよいよ彼らは自身の足元を見つめなおさなければならなくなる。
いやまぁイスラエルとか誘ってみて、更なる拡大という夢の続きを見続けようとしてもいいんですけど。


これまではまだ拡大しているから、自分を探している途中だからと見て見ぬフリを続けてきた問題をいよいよ直面する欧州連合
はたして彼らは民主主義の赤字や、この全会一致ルールといった問題点を解決することができるのだろうか?



みなさんはいかがお考えでしょうか?