「陽気な海賊団」はもういない

現代世界における海賊のお話。


http://www.chosunonline.com/news/20110121000061
というニュースの受けてのtwitter上でのやりとりが面白かったので適当に書こうと思います。
切込隊長とJSF氏の眠れない夜 - Togetter

韓国海軍がソマリアの海賊を射殺・制圧したニュースにはじまるthoton氏との壮絶な戦い

切込隊長とJSF氏の眠れない夜 - Togetter

詳細は上記リンク先を見て頂くとして、海賊乗っ取りに対しての韓国軍による武力を用いた制圧、が不当な行為だと訴えたいらしいです。で、それに対する激しいツッコミが入りまくった構図。
結局の所、今回のお話って「海賊」に対する現状認識の違いが原因だと思うんです。かなりリンク先のやり取りでも言及されてはいますけど。


某大人気麦わら海賊団の漫画のような「牧歌的な海賊像」というのは結構一般の人びと、あまり関係のないところで生きている人びと、にはまだそれなりに残っているんですけども、しかしもうそういう時代ではなくなってしまったんですよね。勿論彼が言うような「一部のはねっかえりによる海賊行為」も未だに存在しているんだろうけども、しかしもうその多くがそんなレベルでは済まなくなってしまった。それこそ陸では「○○系武装勢力」と呼ばれるような組織によって行われる海賊行為が頻発するようになってしまった故に。
海賊行為が政情の不安定な地域で頻発するのは、その海域での警察力の低下という要素も当然あるんだけど、そこで銃の撃ちあいをしている武装組織が海にまで乗り出してきてるということでもあるんです。それこそよく聞かれるような「アルカイーダ系テロ組織」のような。だから払われた身代金がどこへいくかと言われると、やっぱりそこの闘争に少なくとも一部は注ぎ込まれるわけで。そして更に政治情勢は不安定化すると。


また海賊の側だけでなく、対策を講じる私たちの側も変わらずにはいられない。海賊対策のエスカレートが致命的に転換したのはやっぱりあの9.11のテロの影響が大きいわけであります。実際石油やガスタンカーを狙われることは、しばしば、ある話なんだけども、しかし狙いが積荷だけでなくその爆発物という危険性に目を向けた場合、保安上の問題はより難しくなる。それこそ飛行機をハイジャックして突入させるよりも、タンカーやその停泊地のターミナルを狙った方がより大きな破壊活動となる可能性に気付いてしまった。
積荷を奪われるだけならともかく、それがテロや破壊活動にまで転用されてしまったら目も当てられないから。そしてまた消費量の増え続けるエネルギー問題は、その輸送航路の安全の問題と無関係ではいられないから。


こうした二点の作用により、最早現代の海賊行為はかつてのような牧歌的な姿ではいられなくなってしまった。それは単純に個人経営な海賊が姿を消してしまったわけではなくて、相対的によりタチの悪い人たちが増えてしまったから。故に私たちはより効果的な手段を取る必要ができてしまったし、そしてまさに看過した場合の被害の大きさから見た功利性によって、その強行な手段は許容されている。
まぁなんというか現代日本でいう所の『オレオレ詐欺』みたいな感じですよね。地味にこそこそやっていれば良かったのに、しかしその有効性故に爆発的に広まるのと同時によりタチの悪い人たちの参入をも招き、社会全体の大きな問題として共有されてしまう。もう少し大人しくやっていればここまで対策を練られることもなかったのに。


こうして海賊たちに対する武力行為へのハードルは下がり続け、そしてつまり私たちがおとぎ話で見たような愉快な海賊団が存在するような余地は、もうなくなってしまった。そんな悲しいお話でした。