アメリカが二百年以上議論を続ける自由貿易への妄執

そんな彼らを簡単に黒幕や陰謀論などと括ってしまうと見誤りますよ? というお話。


アメリカで「TPP」を推進して米政府を操る黒幕たちの正体 - GIGAZINE
へー黒幕ですって。しかしそれを言ったらアメリカの政治の歴史とはそのほとんどが、つまりその黒幕=各州の利益を代弁する経済利害関係者たちの争いとさえ言えてしまうわけで。いつだってその彼らの地域的な経済利害の対立が一つの要因となって、アメリカ政治をその時々に分断したり連合させたりしてきたのです。アメリカが『合衆国――連邦』であるのは伊達ではない。
つまり彼らはそれこそ建国当時からの200年以上ずっと『自由貿易』について国内的に議論し続け、挙句内戦*1の一因になってしまうほどに本気で考え続けてきました。彼らにとってそれは国家の根幹・国是を成すものでさえあるのです。それこそたかだかここ数年で議論が公に広まった私たち日本とは比較にならないほどに長い時間と労力を賭けたもの。だからその闘争のノウハウ=上記で紹介されているような推進力と詳細な広報活動があるのは、ある意味で当然の話なんですよね。はじめから準備期間とその覚悟が違いすぎるのです。戦闘民族と地球人を較べるようなものなんです。


かつてアメリカ建国の父の一人であるジェファーソンさんはこんなことを仰っていました、

アメリカは「通商を完全に自由化し、福利の自由な相互交流のためにすべての国を結集させるという、人類にとって非常に価値のある目的」へと先導しなくてはならない。

だから上記GIGAZINEさんで言われているように、もしTPPへ全力を出すアメリカへ黒幕・陰謀論を持ち出すならば、その暑苦しく押し付けがましいルーツはアメリカ建国の父たちにまで遡れてしまうのです。
これを見て「うわぁコイツらめんどくせー」と思った人は日本人の持つ感想として概ね正しいです。
私たち日本は、そんなアメリカの妄執にそれこそ『黒船来航』から『満州建国』そして『日米貿易摩擦』の時代までずっと付き合い続けてきました。「鎖国シナイデ開国シテクダサーイ!」から「マンシューヒトリジメヨクナイ!」そして「オマエラ クルマ インチキ ズルイ」と、そして現在の「TPP カユイ ウマ」へ。自由貿易を巡ってめんどくさい隣人と付き合うことになるのは今回の『TPP』が初めてなんかでは決してないのです。むしろTPPのアメリカの圧力という意味では、いつもの話でしかない。


なのでやっぱり『アメリカで「TPP」を推進して米政府を操る黒幕たち』というのは微妙にズレているんですよね。政府を動かしているという点では間違っていないものの、より正確に言うならば、むしろアメリカは建国以来ずっとそうした(経済利害から生まれる)黒幕たち――特に南北戦争後の急速な産業化からは利害に直接関わる大企業たちこそがアメリカ政治の根幹にあったのです。故にアメリカにとって、経済のあり方が政治にどのように影響を与えるか、というのは未だ完全な解答を出せない永遠のテーマでもあるわけです。サンデル先生がその著書『民主政の不満』の中で述べている、つまり「市民権の政治経済」についての論争が示しているように。
他にもこうした点から企業の影響を抑える為の大きな政府や伝統的な小さな政府という議論が出てくるんですけど、まぁその辺はまた機会があれば。