世界の端っこで核をさけぶ

それが世界の中心だと本気で信じているのか、あるいは解ってて敢えてやっているのか、まぁどちらにしても素晴らしいタイミングだよなぁと感心してしまうお話。


北朝鮮、ウラン濃縮一時停止などで米国と合意 写真2枚 国際ニュース:AFPBB News
ということで先日のアメリカと北朝鮮さんちの、ある種の茶番的な合意のお話。夫クリントンさんの時代にやったことを、再び妻クリントンさんが再現している構図。だからまぁ何で今更そんな事を、と批判することはできますけど、おそらくアメリカさんの側としてもそんなことは百も承知の上で解っててやっていらっしゃるんでしょうね。
その意味で、今回の核関連の米朝合意というお話から察する事ができるのは、そんなアメリカ側の迂闊さというよりは、むしろ北朝鮮側はやっぱりそれなりに空気の読める人たちなんだなぁと改めて感心してしまう、といった構図なんだと思っています。


つまり北朝鮮はかなりの部分で、アメリカさんちの現在の状況を『解っていて』こうした構図へ持ち込んでいるわけですよね。大統領選を間近に控えながら、且つイランでのゴタゴタに手一杯になりつつある現状。その上で、彼らは世界の中心ではなく、世界の端っこで敢えて核を叫ぶことによってアメリカの妥協を見事に引き出していると。
もちろん、実際は彼らにとって本気でクソ真面目に「俺たちが世界の中心だ!」なつもりでやっているかもしれませんけど、しかしまぁ(日本と韓国を除く)国際社会の大多数はそんなこと思ってもいないわけで。北朝鮮の問題なんて世界の端っこの出来事で、余話に過ぎないのだと。これより前だとアメリカは相手にしなかっただろうし、これより後だとそれこそアメリカは「弱みに付け込まれている」とより頑なになってしまいそうだし。やはりまぁ絶妙なタイミングだよなぁと感心してしまいます。
以前の日記で、A・J・P・テイラー先生のヒトラー評である「侵略主義というよりは、力の真空状態に付け込んだ機会主義者である」というお話を少し書きましたけど、もしこのお話が北朝鮮から仕掛けたものだとすると、彼ら北朝鮮もそうしたことが言えるのかなぁと思うんですよね。機に聡い機会主義者たち。だからこそ、この絶妙な時期に、この時間稼ぎ以外のほとんど何の意味もない合意を結ぶことに成功していると。アメリカにとって貴重な時間を稼ぐという意味で『背に腹は変えられない』お話ではあるし、そして北朝鮮にとっては文字通り本来の意味で『背に腹は変えられない』からこそ。


飢饉によって追い詰められている風を装いながら、実は千載一遇の機会をしっかり狙っていた人たち。その意味で今回のお話はそんな北朝鮮さんが抱える弱さ、というよりはむしろ強かさが出たお話なのかなぁと。勿論それとはまったく逆に、アメリカの提案に何も考えずに飛びついた北朝鮮、という見方も出来るわけですが。あるいは何故か日本の一部新聞で盛り上がってる「核の完全放棄なるか」や「六者協議再開か」といった話よりは、そんな機会主義者な北朝鮮と選択の余地のないアメリカ、というようなお話に近いのではないでしょうか。
まぁ実際これ位は機に聡くなければ、あの悲劇を通り越して喜劇にさえ見る北朝鮮、という国家をここまで存続させるなんてことできなかったでしょうし。その意味ではやっぱり北朝鮮さんちの素晴らしいタイミングの合意だなぁと思うわけであります。
素晴らしいタイミングで世界の端っこで核を叫ぶ人たち。