『アラブの春』が最後に辿り着いた場所

そんな現代国際関係の縮図。一連の『アラブの春』が最終的にここに帰結したのかと思うと色々感慨深いものがありますよね。


シリア、国連監視団の車列のそばで爆発 護衛のシリア兵が負傷 写真4枚 国際ニュース:AFPBB News
シリア首都で連続爆発、40人超死亡 写真6枚 国際ニュース:AFPBB News
ということで日本ではめっきり報道も少なくなったシリアさんちではありますが、その流される血の量は大して変わっていないというどうしようもないお話となっているのでした。アナンさんとは一体なんだったのか。しかしまぁ慣れって怖いですよね。一日100人ペースで亡くなってももうあんまり大きなニュースとはならなくなってしまっているんだから。
で、アナンさんの調停案以来「表面上は」沈静化した中で、逆に最近になってより暴れまくっているのが上記の犯行声明を出したとされる、過激派イスラム組織の皆様であったりするのでした。反体制組織も一枚岩ではないとはずっと言われてきましたけど、まぁなんというか、ひたすらカオスだなぁと。


さて置き、じゃあ何でシリアの現状=死者がこの一年でもう1万2000人に到達しようとしているにも関わらず、国際社会(欧米)からここまであっさり無視され見捨てられているのかと言えば、これまでも何度も報道されてきたように中国やロシアがその制裁に反対しているからであります。
でもそれが逆説的に意味しているのは、彼ら欧米各国はシリアで「それ以上のことを何一つやる気がない」ことの証明でもあるわけで。岡崎久彦先生はそうした欧米の態度を「建前に過ぎない」とばっさり切っております。

 西側の政治家も戦略家もそれはよく知っています。知っていながら、建前上は、シリア政府による自国民の流血の弾圧は許せないので、とりあえず様々な経済制裁措置を取っているのであり、中ロの非協力は、むしろ、これ以上効果的な措置がとれない現状の隠れ蓑となっている感があります。ニューヨーク・タイムズもそれを知らないわけでもないでしょう。そこで、この社説も、実質のない説教、あるいは、建前論とならざるを得ないのだと言えます。

シリア制裁 「中ロの非協力」批判は建前論 WEDGE Infinity(ウェッジ)

まぁ実際その通りなんでしょうね。だって実際かつてのイラクの時なんて、アメリカ(ブッシュさん)の単独行動主義をあれだけ批判したんだから、今更安保理決議なしに動けるはずがない。それにそもそもアメリカにしろヨーロッパにしろ「それどころではない」のだから。かくして国際合意が得られるはずもないまま――欧米各国だけでなく多数のアラブ諸国からも――シリアは必然の結果として見捨てられていくのでした。そして善意に溢れたアナンさんのような人が悲愴な覚悟で乗り込み、そして案の定見事に失敗しつつあると。
いやぁこくさいごういをじゅうしした『単独行動主義』のないせかいってすばらしいなぁ。


ちなみにこの問題を更に複雑にしているのが近隣諸国の思惑でありまして。隣国であるイスラエルさんちは、かつてのムバラクさんと同様に安定した独裁政権であるアサドさんの方がずっとマシだと思っている一方で、しかしシリアの北側と南側にあるトルコさんちとサウジアラビアさんちは武力攻撃支持の最右翼であり、しかし東にはシリアさんちの最重要同盟国であるイランが構えている。それ以外の周辺国の大多数は、出来ればこのまま何もしないで欲しいと消極的に何もしないことを選択していると。
ほんともうシリア周辺の地図見ているとその混沌具合がすごい。この問題に関してはイランとイスラエルが同じポジションに居るというのはなんというかものすごく面白いですよね。
そしてそれらを更に大きく取り巻く形で欧米と中露の対立軸が存在している現在の構図。


ということでものすごく複雑で愉快なことになっているシリアさんちを取り巻く事情のお話であります。あの『アラブの春』がこうした現代国際関係のパワーバランスの均衡点に帰結するなんて皮肉なお話ですよね。まさにそれは均衡点であるが故に、最早前にも後ろにも動けなくなっている私たち。