ドイツは覚醒するか?

個人的にはやっぱりそれが一番分のいい選択肢だとは思いますけど、ただそれってドイツさん自身だけでなく、周辺国もそれを容認できるのか、という大変ハードルの高いお話でもあると。


http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35285
さすがマーティン・ウルフ先生は面白いことを仰るなぁと。しかしこうして現状を振り返ってみると典型的な失敗した結婚でありますよね。悲しみは二倍に、喜びは半分に。ドイツ自身さえ含めて、そんな誰も得をしなかったユーロという結婚の現状について。

筆者はドイツ人を気の毒だと思っている。といっても、それはこの危機がどのように生じたかとか、どんな対策を打つべきかといった問題について彼らの大半が考えていることに同意しているからではない。

 単一通貨ユーロを作ることが何を意味するのか、ドイツのエリートたちには分かっていたから、というのが気の毒だと思う理由だ。

 ドイツのエリートたちは、政治同盟抜きの通貨同盟はうまくいかないことを理解していた。ところがフランスのエリートたちは、ドイツ連銀(ブンデスバンク)が決める金融政策に依存する屈辱的な状態を終わらせたがっていた。

 それから20年の歳月が流れた今、フランスをはじめとしたドイツのパートナー諸国は、手痛い教訓を学ぶこととなった。ドイツの支配を免れるどころか、さらに強く支配されるようになっているのだ。深刻な危機において君臨するのは債権国なのである。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35285

これまでも何度か書いてきましたけど、やっぱり僕も「ドイツ人を気の毒だと思っている」ポジションです。
勿論現状を見ればユーロは見事にドイツ以外全部沈没な勢いであり、そしてその責任のかなりの部分はドイツ自身にもあるんですけども、しかしだからといってドイツがこうした現状を望んでいたのかというとそんなことは(おそらく)ありませんよね。上記引用先にもあるように、よく言えば『挑戦的』だったユーロの導入に際してフランスは概ね賛成だったものの、しかしドイツは幾らECBがドイツ連銀の影響下にあるとはいえ「いつか自分たち独自の経済運営ができなってしまうのではないか」と現状のユーロの問題を当時から見事に予見してもいたのでした。そしてそれ以外の国はやっぱりECBにおけるドイツ連銀の存在感によって間接的に「ドイツにユーロが支配される」ことを恐れてもいました。
ついでに言うと『失業率の悪化』と『低成長』がユーロ通貨の重大な問題となる、なんてことはそれこそマーストリヒトの頃からずっと言われてもいたんですよね。ここまで予測しておいて見事にその場所に落ちてしまうのは、なんというかアレなお話でありますけども。


さて置き、元々の欧州連合が生まれた背景にあったのは、よく知られているように『ヨーロッパの平和』であります。
しかしそこでは参加国の全員が全員似たようなビジョンを持っていたわけでは当然なかったわけで。ドイツやフランスは自らが主導権の多くを握った形でのそれを目指していたし、中小国は中小国で圧倒的なパワーを持つ「フランスとドイツの抑止」ということこそを目指していました。この基本的な路線は、ドイツとフランスはお互いにやり過ぎないように自制しつつ、中小国のほうはそのドイツとフランスの主導を容認する、という両者の合意によってどちらも満足する形で進められてきました。
なので一人勝ちと揶揄されているドイツさんはドイツさんでやり過ぎたらヤバイともちゃんと自覚しているわけですよね。というかドイツにとってはそうした『過去への反省』こそが欧州連合へ掛ける強力なモチベーションの一つでもあり続けたのです。その点からすると、やっぱりドイツも今の――事実上のドイツ支配という現状は――全然歓迎できるものではなかったのでした。


「俺に支配させないでくれ!」なんて。まぁものすごい厨二感ではありますが、ぶっちゃけその辺りがドイツさんのこれまでの本音だったのかなぁと。故に彼らはこうして未だにその地位に見合ったリーダーシップを獲る事に二の足を踏んでいる。周辺国がドイツもうちょっと上手くやってくれと願うのと同様に、ドイツも周辺国にもうちょっと上手くやってくれと本気で願っているのでしょう。
なぜドイツの中の人たちはインフレを親の敵の如く憎んでるの? - maukitiの日記
上記日記で書いたように、彼らは未だにその反省を忘れていないからこそ。
嫌々支配されている側と、嫌々支配しなければいけない側。いやほんともう笑えばいいのか悲しめばいいのかよく解りませんよね。

 したがってギリシャの離脱は、より強い同盟の構築に向けた大きな一歩か、それとも終わることのない危機という将来かという選択を迫ることになる。

 この断を下さねばならないのは、有力債権国のドイツだ。統合に向けた大きな一歩を踏み出して多数の国民を怖がらせるか、恐ろしい危機が続く未来を待つか、あるいは恐ろしいユーロ解体に今すぐ踏み切るかを判断しなければならないのだ。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35264

別の記事でウルフ先生が指摘していますけど、今のギリシャだけでなく、ぶっちゃけそろそろドイツさんも切れちゃうんじゃないかなぁと思う所ではあります。ついにキレて、過去の歴史を踏み越えて、決断を下してしまうドイツへと。
しかしそれでこそユーロと、引いては欧州連合そのものが次のステージに進めるのかなぁとも思うんですよね。まぁ勿論それはそれで新しい問題が浮上しそうなんですけど。ドイツが主導するヨーロッパ。こう聞くだけで過去のアレやソレを思い出してしまうのは僕だけじゃないでしょうね。それでもやらなくてはいけない所まで追い詰められているユーロの人びと。
がんばれドイツ。