ムバラクさんの長すぎた夢のおわり

こうして独裁政権が三代目で潰えたのはある種テンプレ的展開ではあります。


エジプトのムバラク前大統領が意識不明に 写真2枚 国際ニュース:AFPBB News
ムバラク前大統領が危篤状態、生命維持装置装着 : 国際 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
ということでムバラクさんが危篤だそうで。陰謀論はともかくとしても、余計なことを喋られたくない人は沢山いそうなのでアレであります。なんというか、お疲れ様でした、という感じでしょうか。本人としては一体なんでこんな事に、という面もあるんでしょうけども。
国民にも軍にも、そして後ろ盾だった欧米にも見捨てられた独裁者の末路。こうしたムバラクさんの『死に様』――まだ死んでませんけど――がリビアやシリアなどやっぱり後に続く独裁者たちにも影響を与えたんだろうなぁと。


しかしやっぱりそれまでの『成功の経験』こそがガンだったんだろうとは思ってしまいます。実際、事実上の独裁を30年も維持し続けるのというのは、世界的に見ても結構すごいことですよね。まぁうちの隣の国にもっとすごいのが居たりするんですけど。それは多分にエジプト国民の(一般に温和とされる)性格という面もあったんでしょうけども、やっぱりムバラクさんの手腕という要素もあったのだろうし。
さっさと亡命しちゃえば良かったのに、なまじエジプト国民のコントロールに成功してきたからこそ、今回も乗り切れるなんて勘違いを犯してしまった。不穏な空気を感じ取ったからこそ、『アラブの春』の始まる直前に「次の大統領選挙にも出馬する」なんて最悪の手を打ってしまった。「俺がやらなければ〜」なんて思っていたのかもしれません。
そう勘違いしてしまう位には、それなりにムバラクさんは上手くやってきたんですよね。まぁあくまでエジプト国民の弾圧、という意味ですけど。スティーヴ・ブルームフィールドさんの『サッカーと独裁者』などを見ると、国民のサッカー熱を上手く利用して政権維持に努めるムバラクさんの往時が偲ばれます。
サッカーを利用した独裁者。これもまぁアフリカ諸国やら南米諸国やらで結構よくあるお話ではあります。しかしエジプト国民について「サッカーにあまりにも夢中になってしまうために、人々は現実を忘れてしまう。社会的、経済的問題から目をそむけてしまうんだ*1」なんてことが自虐として言われていたことを考えると、もしかしたらサッカーワールドカップがあと一年か二年早ければ乗り切れたかもしれないのにね、と思わずにはいられません。


ともあれ、傍目には確かに『病死』ではあるんですけども、しかし結局先代のサダトさんの時と同じような結末に至ってしまったのは皮肉な話ではあります。彼はそこから教訓を得て、そうならないように頑張ってきたはずなのに。しかし結局ほぼ同じ結末に。逃げ切れなかったムバラクさん。おつかれさまでした。

*1:『サッカーと独裁者』P46