自縄自縛に陥る人たち

逆ポジションを目指し過ぎてしまった人たちの末路。


[書評]政権交代 - 民主党政権とは何であったのか(小林良彰): 極東ブログ
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参議院石井一BLOG プレスセンターで講演
ということでそろそろ寿命が近づいてきていることもあってか、2009年以来の民主党政権の総括的な面白いお話が出ていたので便乗して雑感。
以前の日記民主党の成功体験に支配される自民党と維新の会 - maukitiの日記で「自民党や維新の会が民主党の成功体験に支配されていて愉快なことになっていますよね」というお話を書きましたけど、よく言われているように、やっぱりそれは民主党自身さえもそのあまりにも眩しすぎた成功体験によって身動きが取れなくなってしまったんだろうなぁと。
その意味で、個人的に今回の顛末とよく似ているなぁと思うのがアメリカの『カーター政権』のそれであります。
前政権の教訓から、国民から解りやすく劇的に逆ポジションを取ろうとし――更にはそれがなまじ成功してしまったものだから――結果として金科玉条と化してしまってまるで融通がきかなくなり身動きがとれなくなってしまった人たち。ウォーターゲートという呪縛と、セイケンコウタイという呪縛に魂を縛られてしまった彼ら。


元々1976年のカーターさんの当選は、多分にウォーターゲート事件の直接的な反応によるものでした。事件の当事者だったニクソンさんの後を継いだフォードさんは、嘘ばかりつく大統領の姿にウンザリだった国民の声に応える事ができず、その反動としてそれはもう「正直で誠実」な大統領こそが求めらるようになっていました。そこへ「私は決してウソはつかない」と断言してみせたカーターさんが華々しく登場したのであります。
もちろんそうした彼の手法は周囲から「そこまで(大見得を切って)約束してしまうのはやめた方がいい」と心配されてもいましたが、しかし、当時の大統領選挙のムードを支配し最早唯一の争点になりつつあった「クリーンさ」という流れを読んでいたカーターさんの戦略は正しい認識でもあったのです。
かくして見事に大差で大統領の座を射止めたカーターさん。
――ところが、そんな前々政権と前政権からの反動によって導かれた教訓であるクリーンさを前面に押し出した彼の政治手法「いかなる妥協もしない」「政治的な駆け引きをしない」「ワシントン流の狡猾な議員たちを関わらない*1」といったものは、まぁものの見事にアメリカ大統領の職務という現実政治と噛み合わなかったわけです。ウォーターゲート事件によるイメージを払拭しようとするあまり、彼は現実的な政権運営そのものまでも遠ざけてしまうことになった。同時に、彼が選挙期間中に掲げたそうした高い倫理基準は、大統領自身だけでなく政権全体をも支配することになり、政権そのものの不安定化へと繋がることになってしまった。そしてイランの人質事件によってトドメを刺された彼は二期目を迎えることはできなかったのです。


こうしたことを振り返ってみると、まぁ色々と現在の日本の民主党の皆さんのアレやコレやらを想像せずにはいられません。あたかも前政権にできなかったことを全てやろうとしたかのようなマニフェストや、自民党の腐敗とされるようなものを全て取り除こうとした政権運営や与党運営など。自ら望んで、文字通り自縄自縛に陥ってしまった彼ら。
ちなみに、両者のように前政権からの大転換を謳いながら、しかしそれなりに成功してみせたのが今のオバマさんだったりするんじゃないかと思うんですよね。あれだけ「チェンジ!」と煽っておきながら、しかし一部の目玉戦略を除き結構な部分で前政権のままというオバマさんの手抜きチェンジ具合は、現実的な政権運営としてはギリギリのラインで破綻を免れていて、その意味ではバランスが取れているのかなぁと。


ということで私たちの次の選挙では、まぁ「セイケコウタイ」もこうして一度経験してわけだし、次はもう少し冷静になって、せめてそれのみを争点にした選挙戦は避けていただければ幸いであります。まぁアメリカの皆さんも未だに重大な政治的事件が起きるとウォーターゲートのそれをもじって「○○ゲート」とか言ったりしていますので、こちらも根が深いんだろうなぁと少し悲観的な気持ちになったりもしますけど。
政権交代か否か」という一点のみを争点にしたバカげた熱狂は一度やれば――実質的には二度目なのが泣ける所なんですけど、次は三度目の正直ということでそろそろオトナになってくれればなぁと。

*1:ちなみにこの辺りの副産物がイスラエルロビーとの距離感にも繋がってカーターさんの中東和平への尽力という所に辿り着いている辺り、皮肉なお話ですごく面白いんですけども割愛。