まともな対抗言説の不在

だからこそ支持されてしまうというのに。


【肥田美佐子のNYリポート】世界が右傾化日本に「ノー」 総選挙を前に - WSJ日本版 - jp.WSJ.com
安倍さん石原さん橋下さんらによる日本のウケイカが云々かんぬん。まぁその辺はさて置くとして。

 最大の経済成長圏であるアジアの安定が損なわれれば、状況に応じて交渉国や戦略などを変える東アジアでのピボット外交で経済的恩恵を得ようとする米国にとっても厄介だ。日中関係の悪化や日中韓のあつれきは、世界経済の足も引っ張りかねない。

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この部分にはやっぱり同意する所ではあります。先日の日記でも書きましたけど、最大の経済圏となりつつあるこの地域の安定は重要視するのは当然のお話でしょう。
しかしこのお話で最も前提にあるのは、南シナ海周辺にまで影響を与えるほどになった中国さんという存在であるはずなのに、その辺りをさっぱり無視しているのはわざとなのか天然なのか気になるところではあります。いやもちろん「その中でも」日中間が一番ヤバいだろうというのは実際その通りなんですけども。しかし、日本が抑制した所で根本的な構図としては何も変わらないわけで。
現状で世界から懸念されている危機というのは、日本の暴走がヤバいというのはその中国との関係が結果として南シナ海周辺国が抱える『対中国』関係にまで間接的に影響を与えてしまうからであって、別に日本が直接的にアジア諸国に云々というお話ではまったくないはずなのに。
根本的な『火種』と『火薬庫』の関係を理解しているのかなぁと。中学高校位までならともかく、「セルビアオーストリア皇太子を殺害したせいで第一次大戦が起きた」と書いたら×は貰わないにしても、△がせいぜいで○は貰えないでしょうに。
その辺の関係をきちんと説明せずに「日本の暴走が云々」とやるのはあまりフェアな議論ではないかと思います。




さて置き、まぁ国内的には客観的な事実として、安倍さんをはじめとする人たちがより強硬な――ナショナリズム的な言説を強めているというのはおそらく仰る通りなんでしょうけども、その背景には対中国という姿勢において、言い様にされてしまった(と見られている)現政権への不満があるわけですよね。
もちろん、だからといってイコールで「故に強硬な態度が支持を集めてしまっている」と言いたいわけではなくて、重要なのはその『対案』の一つとしてまともに解答しているのがこうしたタカ派の皆さんしか居ない、という点にあるのでしょう。
日本の対立軸にはどうして「経済合理性+国際協調」という選択肢がないのか? | 冷泉彰彦 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
この辺は冷泉先生辺りも指摘している所で、何故か「国際協調して中国の拡張主義を抑止しよう」という人たちがさっぱり見当たらないんですよね。ふんわりとした「外交を立て直す」とかやる気のないものばかり並んでしまっている。
――結果として、まともな対抗言説の不在が故に、彼らのようなタカ派だけが支持されてしまう。「中国を国際ルールに従わせるべきだ」というより穏健な人たちが居たっていいはずなのに、しかし何故かそろって沈黙している。かくしてタカ派の人たちばかりが、対抗言説の不在故に、笑うことになるのです。
ここで重要なのは、対中国というポジションをどうするべきか? という政策の比較であったはずなのに。それなのに比較対象がいない。

 なにより日本は、福島の復興、原発放射能問題、被ばくした人たちの長期健康管理という最重要任務を抱えている。40年にも及ぶ東京電力福島第1原発廃炉への技術的・人的・財政的算段や賠償金の確保すら、いまだにおぼつかない状況だ。そんな中、「国防軍論議や防衛費のGDP1%枠撤廃などで、最大の貿易国である中国や他のアジア諸国を刺激し、国際社会を不安にさせることが、義援金やボランティア活動で応援してくれた世界の人々への答えなのか。

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ちなみに、上記引用先の記事ではアジア云々言われていますけども、一方ではこんなことも言われていたりするんですよね。
時事ドットコム:日本の軍事的強化「歓迎」=「中国の対抗勢力に」と要望−比外相

 フィリピンのデルロサリオ外相は10日付の英紙フィナンシャル・タイムズとのインタビューで、軍事的に台頭する中国の対抗勢力として、日本が戦後の平和憲法から解き放たれ、軍事的強化に進むことを歓迎すると表明した。同紙は、中国の高圧姿勢に懸念を強めるアジアの国々が日本の軍事的強化を支持することによって、自衛隊を「国防軍」に格上げする憲法改正を目指す自民党安倍晋三総裁に勢いづける可能性があると指摘している。
 インタビューの中でデルロサリオ外相は、「われわれはアジア地域でバランス形成の要因を求めており、日本はそのための重要な存在になり得る」と述べ、中国に対抗するための日本の「再軍備」を「強く歓迎する」と語った。 

http://www.jiji.com/jc/c?g=pol&k=2012121000131

なんて古き良きバランスオブパワーの時代。
こうしたことも元々、日本が口ばかりの国際協調を言っているだけじゃなくて、きちんと行動に移していればここまで言われることもなかったんですよ。民主党がなまじ中国に直接的に対抗してしまったせいで、文字通り「他のアジア諸国」を刺激し、こんなことまで期待されるようになってしまった。いやぁ笑えないお話ですよね。
かくして、中国に対して「国際ルールに従うべきだ」という人たちの不在こそが、結果として火に油を注ぐことになっているのではないかと。


みなさんはいかがお考えでしょうか?