アルジェリア人質事件被害者実名報道の「正しさ」について

普段の自分たちが政府や政治家にやっているはずの「常に行動がチェックされ検証される」ことにまるで慣れていない人たち。


発信箱:日本人だけ「○人」?=福本容子(論説室)− 毎日jp(毎日新聞)
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ということで見事に炎上してしまった、アルジェリア人質事件犠牲者に対する実名報道のお話であります。


今回の構図って、『報道の使命』とか実名が悪くて匿名が良いとか、別にそういう点で議論になっているわけでは決してないんですよね。報道側の持つ情熱――事件の背景や詳細を明らかにしたい――その目的自体はまぁ別にいいんですよ。
一般に行為の『正しさ』を判断する際には、私たちは三つの次元からそれを判断しているのです。
目的の正しさと、手段の正しさと、結果の正しさ。
その三つの「正しさ」をいかにしてバランスさせるか? 政治家の皆さんを代表とする権力者や組織のリーダーたちはその点にこそ悩んでいるわけです。よく言われているように、目的の為ならば手段が全て正しいというのは許容されないし、目的と手段が正しくても結果が失敗に終わったのならばやはりそれは批判されるべきなのです。
これらの内の優先順位やバランスの配分は多分にケースバイケースと言って良いでしょう。
――では今回の場合を検証すると?

  • 『目的』=報道の使命のため
  • 『手段』=遺族の意思を無視して報道する
  • 『結果』=政府も後追いで実名発表に切り替えた

目的は正しいと言ってもいいでしょう、しかしだからといって、それで採った手段が全て正当化されるわけでは決してない。目的が正しければ手段と結果が正当化されるなんて、それこそテロリストの論理でしかない。
また、今回の件で特に議論の分かれる所はこの最後の『結果』という点でしょう。結果としてその報道を沈静化させる形で政府発表も実名発表となった点。その結果は果たしてほんとうに正しかったのか?

 ライトさんのような証言は、海外では早い段階から多数報道されていた。イギリス人で最初に死亡が確認されたポール・モーガンさん(46)の写真は、お母さんのことばとともに政府経由で公表された。アメリカでは、国務省の報道官が犠牲者3人の名前を挙げ、大統領の哀悼メッセージを読み上げた。
 日本では、「7人」「10人」といった数字ばかり。やっと名前や遺族のことばが報道され始めたけれど、政府も、襲撃に遭った人たちが働いていた日揮も、名前などかたくなに伏せ続けた。

発信箱:日本人だけ「○人」?=福本容子(論説室)− 毎日jp(毎日新聞)

まぁ報道側の人たちはそれを勝利と思っていそうですよね、それこそ政府や日揮の「公表しない姿勢」を批判しているんだから。俺達の手で政府を正してやったのだ、なんて。ところが少なくない視聴者たちにとって無条件でそれが大賛成というわけではまったくなかったのに。


目的は正しく、手段は間違いであり、結果は(贔屓目にいって)中立だった。


かくして彼らは今回の行動を「目的と結果の正しさ」で弁明している。故に手段は正当化されるのだと。でもそれって彼ら日本のマスコミの人々が批判しているアルジェリア政府の言っていることとまったく同じなんですよね。
「テロリスト壊滅という目的の為に、人質ごと撃ちまくる手段を採ったが、結果的にやつらを壊滅させたので成功だ」
「報道の使命という目的の為に、遺族の意向を無視する手段を採ったが、結果的に政府を正してやったので成功だ」
彼らは目的が正しければ何をやっても良いのか、と批判しておきながら、しかし一方では自分たちの弁明もほとんど同じことを言っていることに気付いていない。しかも更に抜けていることに、そもそもその結果の正しささえきちんと担保されていない、というのに。
いやぁ間抜けなお話ではありますよね。



こうして彼らのその自己弁護や建前や言い訳を見ていると、まぁなんというか、心底彼らは「自分たちが何故批判されているか」解っていないのだなぁと生暖かい気持ちになってしまいます。普段とは逆に自分たちへその矛先が向かうことにまるで慣れていない。(世間一般には)優秀でそしてエリートな彼らのことですから、もしかしたら「解っていて」視聴者なんてこれで騙せるだろうとすっとぼけているのかもしれませんが。
目的が正しければ、手段と結果は正当化されるのだ、なんて。


私たちの国にあるマスメディアとして見た場合、心底理解していないのと、ただ韜晦しているだけなのと、一体どちらがマシなのかといわれると困ってしまいますが。
みなさんはいかがお考えでしょうか?