もしもあの時「身代金」を要求されていたら

知らずに済んだことは幸運だったのか不運だったのか。


欧州は人質の身代金80億円払った…元米大使 : 国際 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
まぁ昔から――その「テロリストとは交渉しない」建前はともかくとして――言われ続けてきたお話ではありますよね。ぶっちゃけ実際は多くの国がそれを払ってきたのだと。特に今回のアルジェリアの人質事件のそれも当初からその延長線上にあると言われ続けてきたわけだし。

 アフリカのサハラ砂漠周辺でイスラム武装勢力の人質となった自国民救出のため、欧州諸国が身代金として2004〜11年に8900万ドル(約80億円)を支払ったとマリ駐在の元米大使が明らかにし、「テロリストと交渉しない」方針をとるアルジェリアで批判が出ている。

 02〜05年にマリに駐在したビッキ・ハドルストン元大使が仏テレビのインタビューで述べた。それによると、仏政府は10年、ニジェールのウラン鉱山で「イスラムマグレブ諸国のアル・カーイダ組織(AQIM)」に捕らえられた複数の仏人人質解放のため、仲介者を通じて、1700万ドルを支払った。ドイツなどほかの欧州諸国も身代金の支払いに応じてきた。

 これについて、アルジェリア外務省の報道官は「テロリストへの身代金支払いを強く非難する」と批判した。イナメナス天然ガス関連施設の人質事件でも、武装集団が身代金として得た資金を使って調達した武器が使われたとみられている。

欧州は人質の身代金80億円払った…元米大使 : 国際 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

で、おそらく、その資金が今回の件でも使われていたらしい、と。いやぁ救えないお話ではあります。
その意味では――もちろん被害者の方にはそれこそ「救えないお話」ではありますが――もしアルジェリア軍が早期強行突入を決断していなかったら、私たち日本も、実はより難しい決断を迫られる事態になっていたのだろうなぁと容易に想像できてしまいますよね。


つまり「人命か、テロリスト壊滅か」という究極の二択を。
それもマリへの軍事介入の停止のような政治的要求だったらまだマシで、おそらく金で解決しようといわれた時の方がずっと、頷く事も拒否する事も政治的に難しかったのではないでしょうか。


今回のアルジェリア政府の独断専行を日本をはじめとする多くの国が批判していましたけども、正直、そんなことを事前に相談されていても困っていたと思うんですよね。だってそのどちらも大きな声で決断するにはハードルが高すぎます。ところが、幸か不幸か、私たち「部外者」としてのポジションを得ることができた。政府の人たちはそれで救われた面は多分にあったのだろうなぁと。というかやっぱり、暗黙の了解として、ああいうアルジェリア軍の攻撃という形に決着した面はあったのだろうと思います。形式上その独断専行っぷりを批判してみせたけれども、しかし裏では知っていたのだ――とまでは言いませんが、おそらくお互いに明言しないまま行間を読んでいたのだと。大人って汚い。
――だってもしあの時、『身代金』を要求されてしまった後になってから私たちに相談なんてされてもそう簡単に決断を下せないし、一刻一秒を争うその時に多数の被害者国の意見が纏まるはずがないだろうから。


しかしそれでも、今回の件は上手く切り抜けられたとしても、やっぱりその究極の二択は厳然として存在し続けているわけであります。その意味では、平時の今だからこそ、私たちはそちらの議論を深めるべきなのだろうなぁと少し思ったりします。あるいは覚悟を決めておく必要が。
人命を尊重するのならば上記多くの欧州諸国がやっているように、身代金を払った方が話は簡単に済むのは確かにその通りなのです。金で解決できるのならばそうすればいい。
ところが、問題はその後もこうして尾を引き続ける。その払った金が更なる誘拐事件を呼ぶ。それは当然の帰結ではあってまったく不思議な話ではない。しかし、それでも、その「金で解決した」という決断を100%非難することもやっぱり難しい。「内緒にしておくから」と言われたら悩むのは当然でしょう。まぁ逆に100%肯定することもできませんけど。


公然と『身代金』を要求される前にアルジェリア軍が突入して、私たち日本を含む各国政府はほんとうに救われたのだろうなぁと。どちらを選んでも政治的なダメージを受けるのは必至だったろうから。事件が終わった今でさえその答えを出すことは難しい。
みなさんはいかがお考えでしょうか?