薄れゆく災禍の記憶

「それでも昔よりマシだ」の記憶がもたらす効用。


元紅衛兵たちの懺悔 文革とは何だったのか?(1)~中国株式会社の研究(239)(1/3) | JBpress(日本ビジネスプレス)
文革に参加した庶民たち 文革とは何だったのか?(2)~中国株式会社の研究(240)(1/4) | JBpress(日本ビジネスプレス)
ということで宮家先生の「民衆にとっての」文化大革命という面白いお話。まぁこうした彼らのトラウマに近い記憶こそが、現在の中国における(徐々に風化しつつある)主流の価値観に繋がっているのだろうなぁと。移民の第一世代には我慢できたそれが、以降の世代においてはまったく論外になってしまう構図に近いかもしれない。


特に『アラブの春』などがもてはやされる昨今において、それでもあの中国さんちがそうした動きが鈍いのは、第一には彼らの政府の強権体制にもあるわけですけども、しかしまた同じくらい重要な要素として、そもそも中国国民がそれを本気で願っていない、という点もあるわけですよね。それは単純に現在の政治体制を積極的に支持しているというよりは、むしろあの文化大革命期のような致命的な社会の混乱、一心不乱の大混乱は勘弁してほしい、というそれはもう切実な願いとして。おそらく、共産党という圧制者を政権の座から引きずりおろせば、あの時以上の混乱が起きるのは目に見えているわけで。
故に、それならまだ現在の方がマシだ、というのは解らない理屈ではありませんよね。
――しかし、それでも、いつか記憶は風化する。
身も蓋もない世代交代。まさに現代中国さんちの抱える危険性というのはこうした点にもあるわけで。過去の災禍というトラウマと、現在の災禍への不満。両者はそれはもう危ういバランスの上で維持されている。
当たり前の話ではありますが、資本主義の導入によって成功した中国さんちは、必ずその負の側面にも直面しなければならないわけで。これまではそんな資本主義の導入によって、その鬱憤を緩和させ別方向に逃がすことができていた。しかし資本主義が資本主義である以上、永遠に続く好景気なんてありはしない。


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こうした構図を見れば、一部楽観論として語られていた「中国はゆっくり民主化していく」という議論について、まぁあんまり同意できませんよね。結局のところ、あの若き学生らによる天安門はその序章でしかなかったわけで。もし次があれば、それはより大きなモノになりかねない。だからこそ彼らはよりそうした流れを抑制しようと内部の統制を強めていくのは確実でしょう。まあそれが上手くいくのかどうかは僕には解りませんけど。
「持たざる者」たちの間で着々と進む災禍の記憶の風化を、どうにかこうにか強権体制で埋め合わせようとする人びと。ただ逆説的に、強権体制を強めれば強めるほど、今度は現状の「持つ者」たちにとってはいつか自分もそんな血も涙も正統性もない権力機構に飲み込まれてしまうかもしれない、という恐怖を抱かせてしまうようになるわけですけど。あちらを強めればこちらが立たず。
そんな彼らの愉快なダブルバインドな状況について。



がんばれ中国。