アメリカが世界を無視する時、世界もまたアメリカを無視――などしてはくれないのだ

オバマさんの外交顧問がほんとうにしなければならなかったこと。


http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41946
ということで身も蓋もなく結果論あふれるオバマ政権の現状の米国外交政策への評論ではありますが、概ね納得できるお話ではあるかなぁと。いやまぁオチが「中東新秩序にイラン=シーア派をコミットさせようぜ!」という所でちょっとズッコけてしまうんですけども。それをアメリカが認めてしまったら本気でカオスだろうなぁ。それって中東地域の事実上の二分化であり、ぶっちゃけサイクス・ピコ協定の破壊云々よりも重大な第二次大戦後できた中東秩序――アメリカサウジの同盟の否定そのものに繋がりかねないパンドラの箱だと思うんですけど。でもまぁシェール革命の夢を信じるならば、中東原油の市場支配力を奪えるのならば、それもありなのかもしれませんね。


ともあれ、結局の所オバマ政権のブレーンたちあるいは国務長官たちが失敗した――現状のような外交的苦境に陥ったのは、米国大統領の外交の舵取りの失敗というよりも、むしろ関心を持たせることができなかった、というのは概ね正しい指摘だと思います。大統領に「外交知識」そのものではなく、「外交の重要性の認識」を授けることに失敗した。

拭い去れない批判は、ホワイトハウスの廊下を埋める政治顧問たちへのオバマ氏の自己防衛的な追従によって米国が著しく足を引っ張られてきたというものだ。

 オバマ氏は、行動しないことは行動することより高くつくことがあると同氏に進言することができた外交政策の主流派の人たちを見下してきた。認識の重要性を理解できなかったのだ。

 外交政策は、単にかくかく云々の大国に何ができるかということだけではなく、他の国々がそうした国が実際に行動すると思うかどうかということでもある。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41946

そもそも外交素人で、手持ちのカードといえば「イラク撤退」一点突破で大統領に就任したオバマさんが陥った当然の帰結といえば、まぁその通りでしょう。結局の所、彼に外交ビジョンなんてもの初めから存在しなかった。ただ失敗というよりも、そもそも何かしようとすら思っていなかったわけで。それは米国世論がそう望んだポスト子ブッシュ政権の姿であったし、オバマさん自身も同じように考えていたのでしょう。
――それで済んでいれば、何も問題はなかった。でもやっぱりそうはならなかった。オバマさんは無視し続けることができはしなかった。見事にまわりこまれてしまった。
当たり前の話ではありますが、世界に冠たる超大国であるアメリカがそんな有様で許されるはずなかった。まぁこんなのは当たり前の話ではあるのです。冷戦以後の米国大統領たち、父ブッシュ、クリントン子ブッシュ、彼らも当然のように好むと好まざると押し寄せる外交問題に決断を迫られていたわけで。まさかオバマさんだけがその責務から逃れられるはずがなかったんですよ。
ところが彼は「イラク撤退」というだけで満足してしまっていた。皮肉なのは、一見その重要なテーマがあったからこそ、それだけで十分だと過信してしまった所にあるのでしょう。初めから何も無ければもう少し真面目に考えていたかもしれないのにね。

「望むと望まないとに関わらず、大統領の真価が問われるのは外交政策です。それが現実です。大統領である限り、外交問題を避けて通ることはできません。アメリカの大統領は、自由世界の指導者なのです。避けようと思っても避けられないのです」*1

アメリカ合衆国大統領の場合、外交問題を探すのではなく、外交問題の方から近寄ってくる」*2

外交政策は、決してアメリカ大統領を手放さない」*3

今のオバマ政権のイラクやシリアでの迷走を見るととても含蓄のある言葉*4ですが、これって別にオバマ政権に向けて言われた言葉ではないのです。
なら誰に向けられたのかといえば、前回民主党政権の大統領だったクリントンさんの就任当初にあった「内政優先」「外交軽視」な態度に向けられたのが、まさに上記リンク先にある(民主党共和党問わない)外交政策主流派からの、こうした言葉でした。彼も就任当初オバマさんと似た認識を抱えていたんですよね。まさにオバマさんと同じく国内政策優先こそを訴えて当選し――つまり国民も望んでいないし――外交政策なんて概ねどうでもいいと考えていたのです。
しかし結局、上記のような言葉もクリントンさんの認識を変えることはできず、あのユーゴスラビア危機への対応の致命的な遅れにつながっていくのでした。つまり彼もまたその「外交知識の不足」というよりは「外交政策の重要性の認識不足」という点によって、外交上の窮地に立たされ立ち往生する羽目になったのです。元々明確な方針が存在すらしなかったから対応は毎回場当たり的になり、当然の帰結として彼らは窮地に立たされる。
かつてのクリントンさんにしろ、現在のオバマさんにしろ、やっぱり問題の根幹は同じ所にあると思うんですよね。前政権へのカウンターから過度の内政重視を目指した故に陥る落とし穴。それがクリントンさんの時は父ブッシュ政権のカウンターで、オバマさんにとっては子ブッシュ政権へのそれだったっていうのはものすごく愉快な構図ではありますけど。次に弟ブッシュなんかが米国大統領になったら更に愉快でフラグなことになりそうですよね。


能力不足というよりも、外交政策への関心そのものが不足していた大統領たち。次の民主党大統領では同じ罠に嵌らなければいいね。
がんばれアメリカ。

*1:リー・ハミルトン

*2:ロバート・ケーガン

*3:リチャード・ホルブルック

*4:すべて『静かなる戦争』より。P299、P347、P348