核さえあればいい。

ウクライナ侵攻で改めて証明された不都合な真実



プーチン氏「領土奪還は責務」 ピョートル大帝で侵攻正当化:時事ドットコム
ということでプーチンさんの笑えない発言がまた飛び出ていたそうで。

プーチン氏は「皆さんは彼(大帝)が、スウェーデンとの戦争で何か奪ったという印象を抱いている。だが、何も取っていない。取り戻したのだ」と主張した。また、大帝が首都としたサンクトペテルブルクについて「欧州各国は当時、ロシア領ではなくスウェーデンの一部だと考えた。しかし、そこには太古の昔からスラブ人も住んでいた」と述べた。
 大北方戦争(1700~21年)でスウェーデンを破ったロシアは、バルト海地域での覇権を確立し、欧州で重要な地位を占めるようになった。だが、ロシアはウクライナ侵攻で西側との関係が悪化する中、ピョートル大帝の業績として領土拡大を強調している。

うーん、これはどっきりどっきりDONDONな発言。
「北海道の権利はロシアに」を笑う者は「北海道の権利はロシアに」に泣く - maukitiの日記
しかし、先日の日記でも書きましたけども、まぁぶっちゃけ古今東西領土奪還の大義なんて大抵こういう雑な論理で語られてきたのもまた事実なんですよね。
「スラブ人も住んでいた」
だからプーチンが歴史的にも殊更に邪悪かというと絶対にそうではない。ただ時代錯誤なだけ。
そもそも、誰もが納得する時点での国家の「正しい領土」なんて定義を決められない以上、世界には多かれ少なかれどちらかが(あるいはどちらも)納得できないラインが無数に存在しているわけで。
――であればこそ、武力による国境線の変更を認めると戦争はいつまで経っても終わらない無くならないということで、叡智ある我々はそれをタブーとしてきたわけでしょう。



ところがぎっちょんプーチンはその大原則をまるっと無視している。
ここで面白いというか、皮肉というか、まったく笑えない事実が明らかになっているのは、今回のウクライナ侵攻で改めて証明された事実の一つというのが、つまるところ『核さえあれば』例えまったく正当性のない領土奪還を掲げて侵攻しても、かなりの程度まで国際社会の介入を阻止できるという身も蓋もない事実でもあるわけでしょう。
ウクライナに供与する長距離ロケット「ロシア領内には撃たない」で決着|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
まさにこれまでのアメリカやヨーロッパなどの態度が示しているように、彼らはどう見ても核兵器を使われる世界大戦を恐れる故に、明確にウクライナ支援に一線を引いている。
プーチンがどれだけ時代錯誤な事を言っていても、どれだけ悪いことをしても、結局は核兵器さえあれば見逃してもらえる。


冷戦時代はともかく、少なくとも冷戦以降、これほどまでに核兵器が直接役に立ったことって無かったんじゃないかな。
皮肉なことに私たちのウクライナを非難する態度が強ければ強いほど、相手が持つ核兵器によって強く反発しているはずの私たちの行動は抑止され、逆説的に「核兵器があった方がいい」というインセンティブを強めてしまっている。
長崎平和宣言素案 露侵攻踏まえ「核廃絶」:地域ニュース : 読売新聞オンライン
世界が核廃絶すればこうした事態が防げるという意味で、やっぱりその目標に意味があるのは間違いないでしょう。
ところがまさに核戦争を私たちが避けようとする態度、それ自体が『核兵器の有用性』を証明してしまっているわけで。
今回のウクライナ侵攻でも核兵器の有用性はこれ以上ないほどに示されてしまった。


ウクライナ侵攻で証明された不都合な真実。邪悪な形での核抑止。
その意味でやっぱり「ロシアに絶対に勝たせてはならない」と意気込んでいる欧米リベラルたちの覚悟の文脈も理解はできるんですよね。それは現代世界において領土奪還戦争を容認しないという態度でもあるし、そして『核兵器の脅し』が効果的であるというだけでなく勝利の方程式であることまでも証明しかねないから。


とりあえず核兵器で脅しておけば介入を防げる、なんて。
それは北朝鮮が目指してきた構図そのまんまであり、つまり私たちの今の態度それこそが北朝鮮の目的の正しさを証明している。


核兵器の脅しに屈すれば結果として核兵器の有用性を証明してしまうし、かといってそれを無視すれば核戦争が起きてしまいかねない、というどちらに転んでもロクでもないことになりそうな深刻なジレンマについて。
被爆国日本のみなさんはいかがお考えでしょうか?