「我々にただの運用益ではもはや足りない! 大運用益を! 一心不乱の大運用益を! 」

そんな強欲な投資家たちの先にあるもの。


年金積立運用 過去最大の収益 NHKニュース
公的年金運用益、過去最高の11兆円 12年度  :日本経済新聞
ということでアベノミクス効果のおかげかGPIF=年金積立金管理運用独立行政法人の運用益が11兆円を越えたそうで。いやぁ良かったですよね。
よく言われるように、アベノミクスには様々な批判があったりしますが――それこそ「庶民には届いていない」という批判など――しかし少なくとも株価上昇によるその運用益の増加、という点においては確実に公的年金に関与する大多数の人々の役に立っているのは間違いないのでしょう。この点において、私たちほとんどの日本人は株価上昇による投資家利益を受け取る側に居る。少なくとも平均株価の上昇局面にある限りは、よっぽどのヘタを打たない限りは利益があるだろうし。だからこそ景気の良さ=株価の上昇は万能薬でもある。

 厳しい年金財政にとっては朗報だ。団塊世代の大量退職などで毎年の収入だけでは年金給付がまかなえず、GPIFが積立金を取り崩して支払いに充てている。13年度まで5年連続で毎年度4兆〜6兆円の取り崩しが実施される見通し。09年度に立てた想定では11年度末時点の積立金(時価ベース)が想定に比べ3.1兆円の赤字になっていた。運用結果を受け12年度末時点では「黒字に転換する」(厚生労働省)。

公的年金運用益、過去最高の11兆円 12年度  :日本経済新聞

「現状のアベノミクスで得をしたのは投資家だけだ」という指摘はかなりの部分正しいわけですけど、しかしその投資家に年金運用を任せているのを無視するのはあまりフェアではありませんよね。もちろんこれが急場しのぎであり年金問題の構造的な解決が必要なのはその通りなのですが、しかしそれでも、正しく使えばこうして一時的に穴を塞ぐことができる。



さて置き、国民年金の運用機関であるGPIFはその資金の大きさから「世界最大の投資機関」とも言われているわけです。その金額は120兆とされている。で、去年は11兆の運用益なので年間約10%のリターン。いやぁ金額多すぎてよくわかりませんよね。
日本株暴落の原因が「外国人が大幅に売り越しに転じたため」というのは嘘/Miniトピック | 財経新聞
しかもあまりに大きすぎるせいで、彼らがアベノミクス効果を受けて結果、運用規則に則って「ある程度の株価」の所で利益確定させようと一斉に売ったせいで、一時その勢いが止まってしまったと言われるほどであります。
焦点:動き出すGPIF改革、巨大年金基金に「アベノミクス」の風圧| Reuters
そしてこうした事態――彼らが一気に売ったりしなければ株価暴落は避けられただろうし(運用規則を無視して)もっと買っておけばもっと利益が出た――を受けて上記GPIFの改革がより盛り上がっていたりすると。しかしそれは年金の積み立てを原資にして、より貪欲に株式投資のリターンを求めることでもある。この構図は我ら日本のGPIFほどではないにしろ、世界中の国々の年金基金で行われている日常風景でもあります。特に先進国における年金の多くは、積み立てられ集積することでファンドとなり、それを動かす投資家によって運用益を得ている。その影響力は決して小さくない。こうした傾向は世界的に見てもこのまま続いていくのでしょう。
しかし、その投資家たちの企業業績への圧力がやっぱりリストラや社会保障削減などのコストカットへと突き進む要因ともなるわけで。しばしば批難の対象となる「強欲な投資家像」というのは、実は少なからずそうした年金基金でもあったりするのです。現状の日本では上記運用規則もあってそこまで活発ではありませんが、一方で特に海外の運用規則の柔軟な年金基金の投資家からの企業への圧力はものすごく大きかったりする。そこで当然彼らは大事な大事な年金を「より適切に」運用することを期待する。
かくしてこの構図においてごくごく普通の生活を送るはず私たちですら、労働者であり消費者であり投資家でもある、という愉快な三つの顔と無関係ではいられなくなる。
右手に民主主義を、左手に資本主義を掲げて - maukitiの日記
「利益のためなら(従業員は)死んでもいい」という経営者たちと、「安さのためなら(従業員は)死んでもいい」という消費者たち - maukitiの日記
私たちはコストカットによる「より安くより良い商品」を貪欲に求める消費者であると同時に、私たちはコストカットによる経営の合理化圧力を掛けることで株価上昇を期待する「より大きくより安定した年金支払い」を貪欲に求める投資家(の一端)ともなるのです。
――そしてそんなコストカットの犠牲になるのは哀れな私たち普通の労働者たち。


私たち多すぎ。