それは間引かれる果実のように

だからといって、初めから知らない方が幸せだった、ともまさか言えない。


異常胎児選んで減胎手術36件…長野の産科医 : 科学 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
先天性の病気の胎児選び中絶手術 NHKニュース
まぁひたすら難しい問題ではありますよね。つまり、減胎の際に現状「認められている」選択肢というのは、『全て産む』『全て中絶する』『母体の健康を守る為に減らす(ただし性別や異常の有無で選ぶことは認められていない)』という三択であるわけで。
しかし出生前診断の進歩と普及は、こうした現状をあっさりと突破しつつある。

ただ今回のように、双子や3つ子のうち先天性の病気が見つかった胎児だけを選んで中絶したケースが明らかになったのは初めてで、今後、議論を呼びそうです。
生命倫理が専門の東京財団の※ぬで島次郎研究員は「異常がある胎児を中絶する手術は、双子や3つ子などの多胎かどうかに限らず、これまで数多く行われてきたとみられるがどれくらいの数に上るのか正確な把握さえされていないのが実情だ。実態を把握したうえで、中絶が許される具体的な条件は何なのか、社会的な合意のための議論を進めるべきだ」と話しています。

先天性の病気の胎児選び中絶手術 NHKニュース

ただでさえ「異常を理由にした中絶」という難しい問題が控えているにもかかわらず、こうした「多胎の際の、異常を持つ胎児を選択しての中絶」というのは更に問題を複雑にしてしまいますよね。そこには少なからず母体や正常な方の胎児へダメージを最小限にするという大義名分があったりするわけで。そのジレンマは母親へまぁものすごい心理的負担があることでしょう。「産む」と「失う」を同時に味わうことになる人びと。
産むべきか、堕ろすべきか。多胎妊娠の際にはそのジレンマは更に深くなる。
だったらそんなジレンマ初めから知らなければ良かったのにね、とも言えるんですが。でもやっぱり既に私たちはその情報という知恵の実を食べてしまったわけで。存在を知ってしまった以上知らずにはいられない。その好奇心が何かを殺してしまうかもしれないことを解っていても、でも知らないままでいるには人生にとってあまりにも大きな選択だから。
まるで、農作物を大きく育てる為に不出来な実を事前に間引くようだ、と言ってしまってはあまりにも露悪的に過ぎますけども。農業では許されるそれも、しかし人間が相手では簡単に納得できるわけがない。
不妊治療で使う排卵誘発剤、双子や三つ子を宿すケースが多いとの報告―日産婦より | 医療人材ニュース
先月辺りに話題になったお話ではありますが、不妊治療からの多胎妊娠、というのはかなり大きな問題ともなっているそうで。こうした減胎に伴う問題は、今後ますます増えていくのでしょう。


しかし「中絶が許される具体的な条件」というと身も蓋もないというかなんというか。現状のような日本社会でその答えが出せるのかというと、まぁ難しいのだろうなぁと。例えば宗教が強い社会であれば、そこに何かしらの答えを出すことができたでしょう。しかし相対主義に生きる私たちではあまりにも決断力が足りない。
出生前診断と)中絶の是非について、そこから更に一歩進んで、(出生前診断と)減胎の是非について。


みなさんはいかがお考えでしょうか?