ウクライナ危機は21世紀何度目の地政学的喜劇?

準備ができないまま最大の難問に直面しつつあるヨーロッパ。


http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40740
昨日の日記に関連して、欧州連合と切っても切り離せないウクライナの命運について。来たる25日は欧州議会選挙というだけでなく、同じくウクライナの大統領選挙であり、そのまったく同じ日程が意味するところは明白であります。

 だが、その象徴性は虚しく見える。というのも、ウクライナ情勢全体の皮肉の1つは、ロシアは容赦なくウクライナEU加盟への道を阻止しようとしたが、EU自体は決してウクライナを歓迎するマットを敷いてはいなかった、ということだからだ。
 さらなる東方拡大に対して西欧の有権者が抱く敵意を認識し、EUは意図的に、ブリュッセルに至るまでの道を、長く威圧的な障害物コースにした。ウクライナの絶望的な窮状と同国のロシアとの争いは、そうした障害物の一部を取り除く時だということを示唆しているのかもしれない。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40740

まぁ結局はこういうお話に行き着いてしまうんですよね。
ウクライナとロシアは決断し、しかしヨーロッパは何かを決断する気力すらない。前に進むことも、かといって完全に見捨てることも、あるいは(現状で最善と思われる)状況のリセットすらも不可能な欧州連合


この辺は、ウクライナ問題が持ち上がった直後の日記でも書いたお話ではありますが、
ウクライナはどちらの陣営を夢見るか? - maukitiの日記
結局、今の状況――ウクライナが「ロシア」か「ヨーロッパ」かを選ぶ瞬間――というのは約束されていた展開ではあるのです。つまり冷戦が終わりウクライナソ連から離脱した瞬間から「いつかはこうなる」運命だった。
しかしこれまではきちんとした形でウクライナ国民自身の答えが出ていないかったからこそ、そこに欧露の奇妙な均衡関係が生まれていたのです。少なくとも表面上では欧露の彼らは協力できていた。故にその答えを聞いてしまうのは、実はロシアだけでなくヨーロッパにとっても希望だけでなく不安も混在する未来像であったのです。その両者の関係に緊張をもたらすのは確実だったから。そこに深入りするのはパンドラの箱を開けかねないものとして一種の禁忌扱いですらあった。
「もしウクライナ国民が民主的手続きを経てヨーロッパ入りを望んだ時(対露関係を犠牲にしてでも)ヨーロッパはそれを歓迎するのか?」というのは欧州連合にとって、21世紀の外交戦略の中心を占める最も重要なテーマの一つだったのです。


欧州連合と共に行くと決断したことで帰還不能点を越えたウクライナ。ところが、現在のヨーロッパの彼らにとって、そんなあまりにも重大な局面に直面していながら、全く準備ができていないままずるずると事態に関与する羽目になっている。
オバマさんの覚悟と、プーチンさんの不覚悟を、決定的に見誤ったヨーロッパ - maukitiの日記
ウクライナはそんな欧州連合の内実など構ってくれないままルビコン川を越えてしまった。曲がりなりにも自国領土だったクリミアをあっさりと失った以上、このまま更に情勢が悪化し内戦になろうがもう止まることはできないでしょう。
この構図が悲劇的であり、同時に心底喜劇的なのは、その決断したタイミングを必ずしも欧州連合自身が望んでいるわけではない、という点なわけで。まぁその構図を思うと、ウクライナ危機というのは第三者視点からするとやっぱり苦笑いするしかないんですよね。


実際、現状の欧州連合ウクライナ危機に関わるだけの余力があるのかというと、やっぱりそんなものまったくない。彼らの行動するための政治的資源はもう一連のユーロ危機で使い果たされてしまったんですよ。 
――使い果たされたどころか、むしろ現状は赤字状態で、まさにその「赤字」故に、彼らは欧州議会選挙でそのツケを払う羽目になっている。
この状態でウクライナに何か実効性のある支援ができるのかというと、まぁまずあり得ませんよね。おそらく、今の程度の支援ですら反欧州連合な人びとは言うでしょう。「なぜ、欧州連合の一部官僚が『勝手に』決めたウクライナ支援に我々の税金が使われなければならないのだ」なんて。


文字通り、ヨーロッパの人が一番望んでいないタイミングでウクライナ危機は起きてしまった。
――でも、やっぱりそもそも論を言えば、このウクライナ危機を煽ったのはやっぱり欧州連合の中の人たちだったわけで。こんなことは冷戦後のヨーロッパ国際関係の基礎中の基礎だったはずなのに。何故この最悪のタイミングで。
もしかしたらこの危機を梃子にして、再びヨーロッパ民族の一体性を鼓舞しようとしたのかもしれない。ユーロ危機があったからこそ、彼らはウクライナの問題に火を付けた。
ところがどっこいその劇薬は、見事に裏目に出ている。
ヨーロッパにとってウクライナが自身の命運を握る重要な外交上の案件だというとを解っていながら、しかしそれどころではないと半端な態度しか採れていない。そんなヨーロッパの内実を知ってか知らずか、ウクライナはいよいよ後に引けない最終決断を下そうとしていて、ロシアはそれを絶対に容認しないと高らかに公言している。


いやぁ、ほんともう笑うしかありませんよね。その悲壮な覚悟と、あまりにも中途半端な興味しかない不覚悟が共演しているウクライナ危機。
ほんともう何で彼らはこんなバカげたことを始めてしまったんでしょうね。いやまぁ彼らのバカげた外交上の失態は第一次大戦前夜でも第二次大戦前夜でも見られたわけでもありますけど、しかし今回の件は地政学の歴史としてそれに匹敵する位バカな振る舞いじゃないかと個人的には思っています。
なんでこんな愉快なことになってるの?