問われる欧州連合の覚悟

そしてまた緊急問題の前に重要問題は吹き飛ばされる。


http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41293
米とEU、対ロシア制裁を強化 ウクライナ情勢めぐり 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
対ロシア制裁、割れる欧州 フランスの軍艦輸出に非難:朝日新聞デジタル
ということで例のマレーシア航空機撃墜は大騒動となりつつあるそうで。でもまぁぶっちゃけてしまえば――『9・11』などでも言われたレトリックにあるように――これまでの双方の死傷者に比べれば「たかだか」300人以下の無辜の市民が殺されたところで、その数字上の変化としては大した割合を占めないと言うことはできてしまうわけで。
しかし、ヨーロッパの彼らはごく当然の帰結として、ウクライナ国内で何人死のうがどうでもよかったものの、自身の国民が殺されるのは許せない。シリアではもう16万人以上死んでいるけれど、この298人の死の方がずっと許せない。


その意味で、結局この事件はウクライナの問題であり、プーチンの問題でもあり、それと同じくらい欧州連合自身の問題でもあるのだと思います。

 欧州諸国の指導者も、集団的なスタンスを見直すべきだ。欧州は、中欧諸国のようにロシアに対して厳しいアプローチを取る国々と、イタリアやドイツ政府の一部のように経済関係に与える脅威から厳しい態度を取ることに消極的な国々に割れていた。その結果、欧州連合EU)が承認した制裁措置は米国のそれよりはるかに緩いものだった。

 アムステルダムを出発した便に乗っていた298人の死――そのうち少なくとも198人がヨーロッパ人――がEUの指導者に再考を促さないとすれば、彼らを再考させるものなど何もないだろう。

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上記FTさんの評論では長々とプーチンさんの責任論や今後の展望を唱えていますけども、これで潮目そのものが変わるとか言うのはナイーブ過ぎますよね。彼らにとっては、既に双方はそれ以上の死者を出しているのだからそこに298人という数字が加わっただけ。むしろ今回の件で重要なのは、文字通り外野でなくなった、当事者となった彼ら欧州連合が一体どうするつもりなのかということなのでしょう。
――果たして彼らはこの件を受けてロシアに対してどういう態度に出るつもりなのか?
もちろんかつて民間人も対象にされたドイツ無制限潜水艦作戦を受けたアメリカのように、決定的な態度=宣戦布告をするなんてこと絶対にない。かといって、今回の件をなぁなぁで済ましては被害を受けた国民たちの怒りは確実に各国政府に向かうことでしょう。ならばロシアに一層の制裁でもするの? そしてそれはどこまで・いつまで続けるの? 
欧州連合はロシアに、最終的には何を求めるのか。ウクライナ東部だけ? クリミアまで? ウクライナそのものまで?


それは確実にほかの分野――経済市場や資源を筆頭にして外交分野であるイランやイラクやシリアや北朝鮮など――でのロシアの協力を失うことを意味する。彼らにはそれをするだけの覚悟があるのか?
そしてそもそも、対ロシア政策で特に強く存在する伝統的な「新しいヨーロッパ」と「古いヨーロッパ」の意見の違いを乗り越えることができるのか?


良くも悪くも既に当事者であったロシアやウクライナや分離独立派たちの覚悟は固まっているんですよ。そしておそらく(オバマさんらしく外野のポジションを崩さない)アメリカも。ウクライナ政府は分離独立派を文字通り纖滅することを誓っているし、逆に分離独立派は悲壮な徹底抗戦を、ロシアは現状の紛争と混乱状態の既成事実化を。
だから、悲しい事件ではあるものの、今回の件で彼らにとって何かが変わるのかというと、おそらく、それもない。
当初から言われ続けてきたウクライナ問題の本質。21世紀のヨーロッパの外交政策にとって最も重要な対外関係である、対ロシアの態度を一体どうするつもりなのか?



今回のマレーシア機撃墜で追い詰めらているロシア=プーチンだとはよく言われますけども、それと同じかそれ以上に重要な決断を迫られているのは、まさに欧州連合自身の方だよなぁと。これまでは少なくとも表向きウクライナで無責任な外野のポジションを維持できていたはずなのにね。

 プーチン大統領の責任は、ここで終わらない。ロシア政府は、ペトロ・ポロシェンコ氏が選挙で選ばれたウクライナ大統領となることを受け入れたが、武装集団に戦車と重兵器をどんどん供給することで紛争を煽り続けた。ロシア政府はこうした武器の流れを絶ち、分離主義者に戦いをやめさせ、ドネツク民共和国を解散させなければならない。

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その意味で、プーチンよ正気に戻れ、なんて強い言葉を使う彼らの姿は、そんな自身の態度を決めかねている優柔不断さ及び弱さを露呈しているようにも見えてしまいます。実際、プーチンさんが「改心」してくれれば、彼らは何か新しい決断をしなくても済むのだから。


尚もユーロ危機の後遺症に苦しむ欧州連合。もしかしたら今回の件はその分裂状態を和らげる一助となるかもしれない。あるいは逆にその亀裂を深めることになるかもしれない。
がんばれ欧州連合