いまふたたび『独裁制と二重基準』の時代?

その対北融和策、ジーン・カークパトリック*1が見たらどう思うでしょうか?




韓中首脳「国際社会、北朝鮮が非核化実行した場合は体制保障すべき」 : 政治•社会 : hankyoreh japan
ということで、普段リベラルな私たち日本人が用いる人権擁護な言説における最も悪い例でもあるはずだった、北朝鮮独裁政権との『融和』『体制保障』を求められている現状のジレンマについて。前回日記その対北融和策、レオ・シュトラウスが見たらどう思うでしょうか? - maukitiの日記続きというかオチのお話。

 文在寅(ムン・ジェイン)大統領と中国の李克強首相は9日、「北朝鮮に一方的な要求ばかりするのではなく、北朝鮮が完全な非核化を実行した場合は、米国を含む国際社会が北朝鮮の体制保障と経済開発など、将来を保障することに積極的に参加しなければならない」という点で一致した。

韓中首脳「国際社会、北朝鮮が非核化実行した場合は体制保障すべき」 : 政治•社会 : hankyoreh japan

うーん、まぁ、北朝鮮人民の人権よりも「自分たちの平和」の方が大事だから仕方ないよね。
誰も彼も見境なく「民主化」要求していては上手くいかないというのは、それこそあのネオコンの人たちが証明してみせたわけだし。ネオコンはばかだなぁ。


当たり前の話ではありますが、一口に独裁国家といっても広い世界には、危険な独裁国家も友好的な独裁国家もあるわけで。それを区別して考えることが重要ではないか、ということをかつてジーン・カークパトリックという人が言っていたんですよね。1970年代後半のアメリカのリベラルたちの矛盾について。

われわれは(「多様性」や国家的自立という美名の下で)共産主義諸国の現状維持を認めているのに、「右翼」独裁者の支配する国や白人の寡頭体制については、それを認めていないようにみえる。

このダブルスタンダードを正すには、穏健であろうが過激だろうが左右の独裁政権へ強い圧力を掛けることも一つの選択肢ではあるでしょう。しかし彼女は、むしろ「親米の独裁政権」には目をつぶるべきだ、と主張しました。
故にカーター政権の行った、親米派だったイランやニカラグアへの民主化要求は間違っているだけでなく、むしろその後の展開を考えれば害悪ですらあったと論じています。民主化は大事だけれども、その実現は絶対に簡単ではない。


だから自分たちに「都合のいい」独裁政権は見逃して、「都合のわるい」独裁政権には民主化要求をしよう。ザ・ダブルスタンダード


いやぁカークパトリックさんは良いこと言ってるよね。でもぶっちゃけると、そうした『二重基準』って既にほとんどそのまま日本の左派をはじめとする大多数のポジションそのものですよね。(右派が対北・対中強硬という点もあって逆張り的に)普段はどれだけリベラルな価値観を言っていても、結局は中国や北朝鮮の独裁体制について何か積極的に言うつもりはない。
『地上の楽園』だからセーフはまぁギャグとしても、北で何人餓死しようが核開発しようが拉致されようが、中国でどれだけ政治的権利が制限されようが、自分たちの国の平和と安寧に関係なければそれでいい。
自分たちの政治的主張に都合のいい独裁政権は強く批判し、自分たちの政治的主張に都合のわるい独裁政権は見なかったことにしよう。
かつてのリベラルなアメリカ人と違って、分別のある私たち日本人。



ちなみにカークパトリックさんは初期ネオコン論客の中で最も有名な一人*2でもあります。もし彼女に対北融和策を聞いたら「That's exactly right!」と答えてくれるんじゃないかな。
Ω<つまり我々こそが真のネオコンだったんだよ!
ΩΩΩ<な、なんだってー!?


東アジアの平和のために、自分たちの利益=平和のためならば、北朝鮮のような悪い独裁国家の存続も受け入れべきである。つまり、我々はふたたび『独裁制二重基準』を思い出すべきなのだろうか。
実質的な「金王朝」たる北朝鮮との共存が意味する、そのダブルスタンダードについて。
みなさんはいかがお考えでしょうか?

*1:ジーン・カークパトリック - Wikipedia

*2:ちなみにこの『独裁制二重基準』という論文は、その二重基準の容認によってネオコンの中で大論争を引き起こすんですが、それはまた別のお話。