難破船上の騎士道はあくまで「幻想」、スウェーデン研究 写真1枚 国際ニュース：AFPBB News
悲劇の中に美談を見出すからこそ物語は美しい、といえばそれまでではありますよね。
エリクソン氏は12日、AFPの取材に対し「映画『タイタニック（Titanic）』などで広まった、女性と子供を先に逃がして男性は後に残るという大衆幻想がある。しかし実際の海難事故では、女性にとってそう都合良くはない」と語った。
調査対象となったのは、海難時を起こした8か国、18隻の船に乗っていた計1万5142人。生存率を性別で見ると、男性の34.5％に対し、女性は17.8％だった。
中でもエリクソン氏がショックを受けた例として挙げたのは、1994年にバルト海で沈没し、982人中852人が死亡した客船エストニア（Estonia）号の事故で、男性の生存率が22％だったのに対し、女性ではわずか5.4％だった。
18件の事故全体で男女の生存率が同程度だったのは数件。うち女性が多く生き残った例となると、わずか2件だけだった。
例外とも言えるその2件のうちのひとつが、タイタニック号だ。タイタニック号では女性の70％が生き残ったのに対し、男性の生存率は20％だった。
もうひとつの例は、1852年に南アフリカのケープタウン（Cape Town）近くの港から出港し、直後に沈没した英軍輸送艦バーケンヘッド（Birkenhead）号で、この事故では女性は全員助かったが、男性の生存率は33.5％にとどまった。エリクソン氏によると「海の騎士道」幻想はこのバーケンヘッド号に由来しているという。
難破船上の騎士道はあくまで「幻想」、スウェーデン研究 写真1枚 国際ニュース：AFPBB News
やだ、男の人ってケダモノ。
ただまぁ多分に『集団心理』的なものが働くからこそ、という面はあるのかなぁとは思います。まさに「大」客船だからこそ、そこに集団心理が生まれる余地が出来てしまった。「海の騎士道」精神は確かに存在しているんだろうけども、しかしそれに勝てるほどコモンセンスとして強固なものでもないと。でもまぁそんな集団心理に打ち勝つようなモノってそうそうない気もしますので、殊更にこの「海の騎士道」だけを幻想だと断じてしまうのもなぁと。それを言ったら私たち人類が後天的に獲得した道徳や社会秩序なんてほとんど「いざ」という時には負けてしまいそうですし。
こうした社会心理なお話で、最近話題になった例だとあの救急車の緊急走行を横断歩道で塞ぐ無数の歩行者たちとかに近いでしょうか。別にあの場に居た人たちのほとんどは、それが一般的な横断歩道だったら当然そんなことやっていなかったと思うんですよね。
タイタニック号の場合もバーケンヘッド号の場合も、まず船長が女性と子供を先に救命ボートに乗せるように命令していた。さらに注目すべきはどちらの事故でも船員たちが武装し、男性たちを脅して救命ボートに近寄らせなかったという点だ。
難破船上の騎士道はあくまで「幻想」、スウェーデン研究 写真1枚 国際ニュース：AFPBB News
しかし「銃を持ち出して秩序維持を図る」というのはまぁ身も蓋もない真理なオチであって面白いですよね。人間は最終的に『暴力』によってその権威を担保するからこそ秩序が保たれるんだなぁと。でもそんなの当たり前ですよね。私たちが日常的に生きている現代社会だってそれを見えにくくしているだけであって基本的な構造は何も違いはないわけだし。その基本的原則である法治主義だって構造という意味では何の違いもない。
結局のところ、上記タイタニックやバーケンヘッドでの事例のように、船長の騎士道精神が優れているかどうかというよりも、混乱を防ぐ為に「銃を持ち出す覚悟」があるかどうか、が重要なのでしょう。秩序さえ保とうという意識さえあれば、現代人である私たちは、おそらく女性や子供を優先する、といった行為を自然にやると思うんですよね。秩序さえ保たれていれば。
そんな、ある種の閉鎖環境下の船上における最高権力者である『船長』の優秀さについて。能力とやる気のある海軍の人たちの多くがそのポジションについて素朴な憧憬を抱くのも無理はない気がします。
ということで、こうした豪華客船に乗り込もうとする女性や子供の方々は、そんな『船長』の優秀さに注意すれば万が一難破した時に助かる見込みが高い。ということが『誰もがわれ先に――海難事故におけるジェンダー、規範、生存』の研究によって示されたのでした。素晴らしい研究でした。
でも優秀な船長ならばそもそも事故が起きないだろうというのは、まさにその通りで。そしてつまり事故を起こす船長と言えば一般的に……。
伊大型客船所有会社「船長が判断ミス」、死者5人に 写真8枚 国際ニュース：AFPBB News
そもそも事故を起こす時点でその船長の優秀性に疑問が付き、そして彼らは見事にその能力故に緊急事態の収拾に失敗してしまう。かくして必然の結果として「海の騎士道」は失われていくと。なにこのどう見ても詰んでる感。
