神の摂理の如く少数派へと転落するアメリカ白人たち

そんな見事に規定路線なお話。


米国の赤ちゃん、史上初めて白人系が少数派に 米国勢調査 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
「白人系」とか言ってますけど、ヒスパニックは人種じゃないだろ、という突っ込みはもっともであります。しかしまぁより正確に言えば『非ヒスパニックの白人』の割合という点こそがアメリカにおける人口統計のお話における最重要なポイントではありますので、そこをあけすけにしてしまうと色々アレでソレなので微妙に濁しちゃう気持ちも解らなくはありませんよね。

【5月17日 AFP】米国で生まれた新生児のうち、白人系はもはや多数派ではないことが、米国勢調査局(US Census Bureau)が17日に発表した統計結果で明らかになった。

 米紙ニューヨーク・タイムズNew York Times)が報じた統計結果によると、2011年7月までの1年間に生まれた米国の新生児は、ヒスパニック、アフリカ系、アジア系、混血系など非白人系が50.4%を占め、米国史上初めて白人系が過半数を割った。

 ヨーロッパからの白人移民によって建国され、初期には労働力として多数のアフリカ系の人々が奴隷として連れてこられた米国の現在の人口比の変化は、ある程度は予測されたことだった。近年は中南米からのヒスパニック系移民が増加しており、新生児における白人系比率の低下に拍車をかけたとみられる。

米国の赤ちゃん、史上初めて白人系が少数派に 米国勢調査 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

昔から指摘されていたお話ではあるし、メキシコ国境沿い――特にアメリカ南西部州では新生児どころではなく既に決定的に進行しているし、ついでにロスやマイアミではもう既に『完了』しているとさえ言えるんですよね。ヒスパニックな人たちこそが決定的な多数派となっているアメリカ南部の大都市たち。そこでは『非ヒスパニックの白人』の皆様は完全にマイノリティであり、「マイノリティになるということはこういうことなのか……」という経験を現在進行で味わっているのでした。
だから身も蓋もなく言ってしまえば、こうした白人新生児の割合低下というニュースは、ほとんどそのままヒスパニック系が増加したというニュースであるわけです。
Census: Fewer white babies being born – In America - CNN.com Blogs
こちらのCNNさんの記事を見ていただけると、その身も蓋もなさが大変よく解ります。他州がなんとか五分五分でこらえている一方で、見事に南西部州が真っ青(マイノリティの新生児が60〜80%を占めている)であります。
なので今回のニュースで重要なのは、以前から存在したこの一部地域の問題であったモノが、ついにアメリカ全土の人口統計にまで影響を及ぼすようになった、という点なのでしょう。その意味ではまぁ規定路線だったとはいえやはり重大なニュースではあるのかなぁと。
ちなみに1970年にはアメリカ全体の83%を占めていた『非ヒスパニックの白人』は、2040年には少数派に転落すると人口統計学の先生から予測されているそうで。まぁ今回のニュースを見る限りさもありなん、といった感じですよね。



ということで、こうしたアメリカの人口統計における決定的な変化について、サミュエル・ハンチントン先生は『分断されるアメリカ』の中でそれはまぁ明確に懸念を表しているのであります。「いつかアメリカは二つの言語と二つの文化という二分化に陥ってしまうのではないか」なんて。
それは白人が少数派になってマジヤバイという単純なものではなくて、これまで苦しみながらも三歩進んで二歩下がりつつやってきたアメリカ社会における人種や民族によるアイデンティティの同化と中和という(多文化主義的な)試みが、しかしヒスパニックな人たちの強力な団結心という試練にさらされている。将来アメリカ全体で現在の南西部州の都市で見られるような「二つの言語と二つの文化」という姿になってしまうかもしれない、と。
以前の日記でもちょくちょく書いてきましたけど、やはりアメリカの移民問題の中心はここにあるのでしょう。ヒスパニック系の同化問題について。
かつて「白人とそれ以外」だったものが、「ヒスパニックとそれ以外」という新たな断層線を生み出しつつあるアメリカ。かくして少数派へと転落する一部の白人たちは、半ば必然の帰結としてネイティビズムのような行動に走ってしまうと。折角どうにかこうにか肌の色の違いを乗り越えつつあるのにアメリカさんちも色々大変だなぁと同情してしまいます。まぁ皮肉なことに、だからこそ、こうして同化を拒む(だけでなく圧倒的な人口増大による)ヒスパニックという問題が浮上してきたとも言えるんでしょうけども。
しかしこの辺り反移民という反応は別にアメリカに限ったことでもなくて、むしろ極右勢力が選挙での議席として伸張しているヨーロッパの方が先を行っているとも言えるかもしれません。単純な数の大小で較べられるものではなくて、その既存の住人たちとの割合という点において、やっぱりヨーロッパも同じなのかなぁと。少数派に転落すると怯える人びと。この辺りのお話は次回書こうと思います。


ともあれ、うちの国の将来の少子高齢化もそうですけど、アメリカさんちはアメリカさんちでこの先色々大変そうですよね。がんばれ未来の子供たち。