中国のイデオロギー焦土戦の帰結

そして最後に残るのは独裁政権を守る最後の防波堤。経済成長という万能薬、あるいは麻薬。


中国、逮捕者相次ぐ−11月の3中総会前にネット監視強化か - Bloomberg
【天安門車炎上】警察、長安街を封鎖、AFP記者ら一時拘束、ネット投稿次々削除+(1/2ページ) - MSN産経ニュース
ということで記者は逮捕されるわ、天安門で自動車が突っ込むわで、相も変わらず大変そうな中国さんちであります。で、微妙にタイムリーだなぁと思ったのが以下の記事であります。
「イデオロギー」の力が消えた中国社会 孫悟空の「わっか」はもう利かない(1/3) | JBpress(日本ビジネスプレス)
「報禁」と「党禁」ですって。習さんになってから進むと思われた政治的自由化もやっぱりそんなことなかったよね、というお話。

 独裁政治が統治を続けるためには、党員に対する統率を強化する必要がある。そのために重要なのは、指導者のカリスマ性と、党の綱領であるイデオロギーの影響力の強化である。毛沢東の時代は、毛沢東への個人崇拝を徹底させると同時に、マルクス・レーニン主義毛沢東思想に基づいたイデオロギー教育を徹底的に強化した。
 だが、三十余年前から始まった「改革開放」政策により、イデオロギー教育は緩和されてきた。経済のグローバル化が進むなかでイデオロギーが統率力を失うのは当然のことであろう。マルクス・レーニン主義の実験室だった旧ソ連が崩壊した現実は、中国共産党にとって何よりの反面教師である。

「イデオロギー」の力が消えた中国社会 孫悟空の「わっか」はもう利かない(1/3) | JBpress(日本ビジネスプレス)

ただ、「イデオロギーの力が消えた中国社会」というのは、実は独裁者の側にとっても都合のいいお話ではあるんですよね。
中国に『春』が来ない理由 - maukitiの日記
先日の日記でも書いたお話ではありますが、イデオロギーというのは権力維持という役割だけではなくて、それとはまったく逆に劇的な社会変化=革命を引き起こす為のエネルギーともなる。苦しむ人びとを一つにまとめる為の接着剤としての役割。そうやって人びとを一致団結させるからこそ、劇的な『革命』は実現するわけで。
だからこそ歴代の中国共産党政府は、宗教を初めとする人びとを一つにまとめかねないイデオロギーを徹底的に弾圧してきたわけであります。
まぁそうしてイデオロギー不毛地帯にし、そして更に「改革開放」によって唯一残っていた共産主義的なイデオロギーも自らの手で葬った彼らは、結果として権力維持の為の大義名分まで失っているものの、同時に中国国民の不満を受け止めるイデオロギーの存在自体まで消えうせている、というのはまぁやっぱり愉快な状況だよなぁと。敵に利用させるくらいならば、自らの手でぶっ壊してしまえばいいという逆転ホームランなこう図。
――実際20世紀の歴史を振り返った上で最近の中国さんちの成功を見れば、彼らのそのイデオロギーの焦土戦はそれなりに上手くいっている、という事はできるかもしれませんよね。




かくして現在の中国共産党の中の人たちは、多くの独裁体制がたどり着くの同じ地平にたどり着いているのであります。国民に利益を与えているという点こそが彼らが権力を握る政治的正当性であるのだと。
経済成長が実現できているうちはまだいい、しかしそれが失敗し国民の不満を抑えられなくなったら?

 最近の中国社会を見ると、国民の政治離れが急速に進んでいることが分かる。かつて中国人の生活は政治と濃密に関わっていたが、今の中国人は政治と関係なく生活することができる。また、政治と関わりたいと考える中国人は急速に減少している。

 こうしたなかでイデオロギーをもって国民に忠誠を誓わせようとしてもまったく効果がない。国民の関心はただ1つ、経済的に豊かで幸せな生活を実現できるかどうかの1点に尽きる。

「イデオロギー」の力が消えた中国社会 孫悟空の「わっか」はもう利かない(1/3) | JBpress(日本ビジネスプレス)

その意味で、中国政府の中の人たちこそが実は中国の経済成長を、それはもう本気で心配しているわけであります。彼らにとってその「失政のツケ」というのは、実は民主主義政治での指導者達よりも独裁政権の指導者たちの方が、途方もなく大きな犠牲を支払うことになるから。前者はただ政権を降りさえすればいい、でも後者であればもし政権が奪われた場合自身の財産や生命までをも失うことになりかねない。
一般に独裁政権であればあるほど失政のツケは大きくなり、故に彼らはその失敗を帳消しにしようとより強権を振るうようになるのです。
一方で皮肉な話ではありますが、中国国内での少なくとも貧困層ではない一定以上の水準の人々にとって、実は上記「報禁」と「党禁」などを緩めるような運動ってそこまで支持されているわけではないんですよね。だってそうなってしまったら中国社会が致命的に混乱するのは避けようがないから。少なくとも現在までの中国は世界でも最も高いレベルで経済成長をしている、それをご破算にするなんてとんでもない、なんて。
ただこれも今後益々格差が広がっていくだろう中国さんちにおいて、いつしかそのバランスは徐々に傾いていくことでしょう。その時一体どうなるのか。



経済成長を望む政治家と、安定を望む金持ち、そして変化を待望し続ける貧しい人びと。
がんばれ中国。