まるでいつかの『三十年戦争』みたいなシリアの現在

神聖ローマ領の役割となったシリア。でもジュネーブはウェストファリアになれそうにない。


シリア和平会議が22日に開幕、「進展は望み薄」との声も 写真4枚 国際ニュース:AFPBB News
シリア和平会議が開幕、アサド氏の進退めぐり激しい対立 写真2枚 国際ニュース:AFPBB News
ということでもうジュネーブじゃないのに『ジュネーブ2』なんて愉快な名前がついている和平会議がいよいよ始まるそうで。正直そんな風に『2』にこだわった時点で「どうせ進歩ないよね」という身も蓋もないお話になってしまいそうだよなぁと。
国連、シリア和平会議へのイラン招待を撤回 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
個人的にその解りやすい一例として、やっぱりなにも決める気はないのだなぁと生暖かい気持ちになってしまうのは結局イランが参加しなかった点だと思うんですよね。

 国連のマーティン・ネシルキー(Martin Nesirky)報道官によると、関係各国が達した「ジュネーブ合意」を拒否する声明をイランが発表したことについて、潘基文(バン・キムン、Ban Ki-moon)事務総長は「深く失望している」という。

 シリア政権の主要な支援国であるイランの会議への招待に反発し、参加撤回を示唆していたシリア反体制派の統一組織「シリア国民連合(Syrian National Coalition、SNC)」は、国連の発表を歓迎し、参加の意向を表明する声明を発表した。

国連、シリア和平会議へのイラン招待を撤回 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

紆余曲折を経た結果イランは不参加と相成った。でもイランの言うことはそれなりに正論というか、現実的な反発ではあるんですよね。だって2012年6月当時のシリアの情勢と現在のそれはもうかなり掛け離れたものになってしまっているわけで。それこそ現在のシリアにおける重要な戦争当事者である(イランが後援する)ヒズボラを無視して、前回とりあえずとして出た『ジュネーブ1』の最終声明が実現できるのかというと、まぁ以下略でしかありませんよね。
そもそも、現在のシリアって最早単純に「政府軍対反政府軍」という構図では済まされなくなった。その経緯はともかくとして、もうどう見てもスンニ派シーア派の「宗派対立」という地平にまで至ってしまいつつある。その意味で、当初から指摘されていたようにシリアという地では二つの内戦を抱えるようになっているのです。狭義の内戦と、広義の内戦。


シリア国内での内戦であると同時に、イスラム世界の内戦でもある。
シリア国内の影響力争いと、イスラム世界の影響力争いの最前線。


ハンチントン先生が『文明の衝突』の中で述べていらっしゃることでもありますが、あの1924年のイギリスによるトルコのカリフ制の廃止以来、イスラム世界には「長老」たる強い影響力をもった中核国家=イスラムの代表は存在してこなかったわけであります。そんな権威を持ってイスラム世界全体の利益を考える指導力をもった存在がないからこそ、西欧文明によって自分たちは抑圧され(石油資源などを)搾取されてきたのだ、というのはある種の人たちにとっての大前提でもある。故にイスラム世界の復権を目指す人々は(『カリフ』という名称やそもそも誰がなるのかという問題はさて置くとして)それを悲願として目指している。現在のシリアというのは――ついでに言えばフセイン後のイラクも同じく、こうしたイスラム世界内部での中心であり最前線であり、つまり影響力争いの草刈り場となっているんですよね。
それが両宗派を代表とするサウジやイランなどであるし、あるいはここ数年イスラム寄りの姿勢を見せ始めたトルコもやっぱりそうした座を狙っているのだろうなぁと個人的には理解しています。
こうしてシリアの現状というのは、反体制派を支援し民主化を押し進めようと無邪気に願う欧米諸国と対立する現政府支援なロシアというだけでなく、シリア国内の宗教分布に基づくスンニ派シーア派の宗派対立でもあり、そして地域大国のようなイスラム世界の新たな指導国家となることを望む諸国の対立という、まぁぐだぐだな内戦であり宗派戦争であり代理戦争が繰り広げられることになる。
現在のシリアのようなこうした内戦が何で悲惨なコトになるのかって、そりゃもう「代理」戦争でもあるからですよね。本来であれば、あまりにも犠牲と損失が大きくなった時点で手を引くインセンティブが働くはずなんですよ。ところが、どこまでいっても実際に真っ先に苦しむのシリア国内のことでしかない。もちろん難民などの混乱拡大は周辺国にまで広がる余波はあるものの、しかしそれでも、直接に自国内が戦場になるほどでも決してない。
だからこそヨーロッパの人びとは「最後の宗教戦争」であり「最初の国際戦争」でもある『三十年戦争』という複数のプレイヤーが入り乱れるあまりにも不毛なパワーゲームを少しでも抑止しようと、戦後のウェストファリアによって内政干渉宗教戦争を抑止しようとしたわけですけども、しかしイスラムの世界には幸か不幸かまだそうした合意は得られていない。ジュネーブはウェストファリアにはとてもなれそうにない。
かくして彼らはいつまでたってもぐだぐだと「シリアの国内での」犠牲を積み上げることになる。いやぁ救えないお話ですよね。




話は微妙にズレますけども、こんな不毛なシリアで心底皮肉だよなぁと思うのはスンニ派にしろシーア派にしろ彼らの戦力――所謂イスラム聖戦士たちが、そもそもアメリカやソ連イスラエルと戦う為にその刃を研ぎ続けてきたという歴史があるわけで。そうやって彼らは侵略者への抵抗の為にこそ、そのスキルを徐々に高めてきたはずなのに。
ところがそんな向上の結果が、同じイスラム内での内戦での長期化を招き泥沼の戦いに繋がったっていうオチ。彼らはまさにかつてアフガニスタンレバノンで見せたように素晴らしく効果的に、シリア国内で戦い続けている。いやぁすんごい歴史の皮肉だよなぁと思ってしまいますよね。この辺のお話についてはもう少し書きたいので次回あれば。




ともあれ、それは単純に「敵と味方」「欧米とロシア」「スンニとシーア」というような二項で分類できるものですらなく、それぞれのプレイヤーはそれぞれの思惑に従ってお互いに戦い続けている。いやほんともうどうすれば戦いが終わるのかわかりません。ちなみに先例たるヨーロッパでは、それはもう戦争を継続する余力が無くなるまで殺しあったわけですけども、果たしてイスラムさんちは一体どうなるんでしょうね?
――こうした構図で考えるとオバマさんの「中東なんかもう知らない!」というのは、やっぱりそれなりに理にかなった選択肢ではないのかなぁと思ったりもします。だってこんな複雑怪奇なシリア情勢をどうにかできる案が見つかるとはとても思えないから。
それこそ、私たちは彼らが勝手に殺しあってるのを黙って見てればいいではないか、なんて。


世界が平和でありますように。