ロシアへの対抗心というよりそもそも眼中になかったことによる帰結としてのNATO東方拡大

そしてその事実がまたロシア国内の強硬派を怒らせる。


「だまされた」と露大統領 NATOの東方拡大に - 産経ニュース
これなぁ、結構めんどくさい問題なんですよね。まぁぶっちゃければ『口約束』にどこまで拘束力があるか、というお話にはなってしまうんですけど。それこそ国内的な法律問題ではある程度規定されていますけど、一方で外交史という面で見ると歴史上何度も問題になったようにそんなものあるわけない。実際問題としてまぁ無政府状態なこの国際関係において、それは究極的にはどこまでいっても紳士協定でしかないわけだし。
NATOの東方拡大について。

 1989年12月3日、マルタでの記者会見でゴルバチョフソ連共産党書記長とともに「冷戦終結」を宣言したブッシュ米大統領(父)は翌4日、ブリュッセルでのNATO首脳会議で、NATOを東西融和に向けた政治機構に変容させる構想を表明した。

 しかしNATOはその後も軍事機構として膨張を続けた。「(米国は)ゴルバチョフ氏に、NATOは旧西ドイツより東方には拡大しないと約束した。今、NATOの境界はどこにあるか」。プーチン氏は米欧が合意を破ったと批判する。(共同)

「だまされた」と露大統領 NATOの東方拡大に - 産経ニュース

確かに口約束というか暗黙の了解はやっぱりあったわけですけども、しかし重要なことにそれって『正式合意』にはなっていないわけで。
A Broken Promise? | Foreign Affairs
逆に言えば拡大を容認する論調がゴルバチョフさん自身の口から出たこともあったし、まさにそのレベルで言えばゴルバチョフさんの後を継いだエリツィンさん時代の会議ではより直接的に東欧諸国がNATOに加盟する権利を認める話があったりした。


このお話で悲劇であり喜劇なのは、プーチンさんをはじめとするロシア強硬派の皆さんが怒るこのNATO拡大という「約束違反」って単純にロシアの対抗というよりは、そもそもロシアのことを軽視し根本的に考慮していなかったから起きた構図なんですよね。
つまり、対東側軍事同盟が存在意義であった彼らの冷戦後の自分探し。NATO自身の存続の為にこそ、彼らはその拡大を志向していかなければいけなかったわけで。故に彼らが目指したのは統一欧州の守護者としての役割でありました。単純にこれまでの外敵というだけでなく、かつての東欧諸国でも見られたような民主主義を抑圧する軍部ではなく、軍を民主化勢力に変貌させ民主化推進の一員とする。その為にもNATOの東方拡大を。
多かれ少なかれロシア(特に強硬派)の人たちもこの身も蓋もない事実を解っていて、ロシアのことなど歯牙にもかけなくなった欧米の態度こそが、また彼らを怒らせるんですよね。そんな本心を隠して彼らは「約束違反だ!」と叫ぶ。
まぁやっぱり愉快と言えば愉快なお話です。


ともあれ、これってクリントン政権時代における最も重要な外交政策の決定の一つであります。その意味で言えば、この構図で誰が最も責任が――あるいは成果があるとすれば、クリントン元大統領であると言えるでしょう。まさに父ブッシュ時代まであったような伝統的な現実主義な外交政策なんて知ったことではない新世代の米国大統領だったクリントンさんの成果、あるいは失態。プーチンさんは怒るならクリントンさんに怒ればいいんじゃないかな。


がんばれアメリカとかヨーロッパとかロシア。