伝統ある棍棒外交の再生

棍棒を振り回して言うことを聞かせたい人たち。



NATO、ロを「直接の脅威」と明記 新戦略概念で中国にも初言及 | ロイター
ということで冷戦終終結以降、割と画期的な形で欧米とロシアが一線を超えたそうで。

マドリード/キーウ 29日 ロイター] - 北大西洋条約機構NATO)は29日、マドリードで開催した首脳会議で、今後10年間の防衛・安全保障の指針となる新たな「戦略概念」を採択し、ウクライナ侵攻を続けるロシアを「直接の脅威」と位置づけた。さらに今回初めて中国について言及し、中国が「深刻な挑戦」を突き付けていると指摘した。

NATO、ロを「直接の脅威」と明記 新戦略概念で中国にも初言及 | ロイター

冷戦以降役目を失った――と思われてきたNATOが再び「ロシアが脅威である」と前面に出てくる時代が来るとはマジで思わなかったよねえ。
NATO即応部隊、大規模増強へ ロシアの脅威受けて - BBCニュース
アフガニスタンなどの失態もあって散々役割を終えたと批判されてきたNATO大復活。
じゃあそもそも冷戦終結あるいは対テロ戦争とは結局一体何だったのか、という議論が思い浮かんでしまいますけども、その評価は未来の歴史家たちに任せよう的なかっこいいエピローグになるのでしょう。
未来人である我々は、第一次世界大戦第二次世界大戦戦間期を見て、そらそうなるよとしか思えないわけだし。
ただここ10年前後のウクライナでの展開を今更ながらに考えてみれば、こうしてあからさまに棍棒を振り回しているロシアを見ると、こちらもそらそうなるよと納得できる展開ではありますよね。


国際紛争』のジョセフ・ナイ先生によれば、国際関係におけるパワーと定義とはつまるところ「自分が望むように、他者に影響力を与える能力」であり、その行使の筆頭として「棍棒を使った強制力」があるわけで*1
ウクライナ中部の商業施設にミサイル攻撃、ロシアの戦争犯罪だとG7首脳 - BBCニュース
ロシアのミサイルが直撃した瞬間 付近の公園で逃げ惑う人々 - BBCニュース
CNN.co.jp : ウクライナ南部ミコライウにミサイル8発、4人死亡と市長
最近また雑に増えてきたウクライナの軍事目標だけでなくランドマークや市街地へ副次的被害が出かねないミサイル攻撃も、まぁそういう視点で見ると割と目的は明確でしょう。
ウクライナが降伏すれば直ちに攻撃停止 ロシア大統領府 写真3枚 国際ニュース:AFPBB News
――つまるところ、棍棒(ミサイル攻撃)で脅すことでウクライナに言うことを聞かせてやろう、というきもち。
しかしそれが世界の常態であったこともやっぱり間違いないんですよね。
私たち日本だってかつて砲艦外交としてカイコクシテクダサーイと黒船で脅されたし、特にアメリカはその代名詞である『棍棒外交』として、ヨーロッパからの介入を阻止し中南米アメリカの覇権を打ち立てたわけで。今ウクライナでやっているプーチンの行動そのまんまに。


そうした棍棒外交やNATO復活を見ていて面白いというか歴史が終わっていないとしみじみ思っているんですが、それと同じくらい興味深いのが本邦にも少なくない「棍棒に屈さず抵抗する方が悪い」という自国第一主義な人たちの多さでもあります。

なぜ第二次大戦後に「保護主義こそが悪である」という考えがヨーロッパを中心に生まれたのかというと、それと地続きな自国中心主義が国際関係の領域にまで波及した時に破滅的な結果をもたらしかねない、という点が前提にあったわけですよ。
――自国・勢力圏さえ良ければ他国なんてどうなってもいい、なんて。

(政治的)保護主義の行き着く果て - maukitiの日記

政府方針というよりは、一部の国民の意志としては既に1930年代のブロック経済な世界観に近づきつつあって面白いよね。
ウクライナ支援を「必要な限り継続」 、G7が共同声明 - BBCニュース
そして棍棒外交をしようとする人たちの一方には、必死にその結束を維持しようとする人たちがいる。
欧州、広がるウクライナ疲れ 長期化で支援に影響も―物価高、市民の心理に変化:時事ドットコム
それこそ今回は棍棒外交に対する抵抗の支援だけでなく、ロシアのガスという甘い蜜な報酬もちらつかされているわけだし。いつまでも無限にその善意が続くわけが絶対にない。
はたしてロシアが折れるのが先か、支援する側が折れるのが先か、あるいはウクライナが折れるのが先か。
一体誰が先に脱落しちゃうのかな~~~???


アメリカがやっていた頃から100年かあ。世界史的に見れば100年は誤差なのでセーフ。……セーフ?
100年遅れて棍棒外交を始めたプーチンについて。


みなさんはいかがお考えでしょうか?
 
 

*1:残り二つは、もう一つのハードパワーである報酬と、魅力や説得なソフトパワーである。