わがままはギリシャと北欧諸国の罪、それを許せる合意を作れないのがドイツの罪

ドイツによる四度目のヨーロッパ支配への挑戦。まぁ武力によって決まらないだけ随分マシですよね。


ギリシャが離脱すればユーロ圏は崩壊=バルファキス財務相| Reuters
ということでギリシャさんちの愉快なぶっちゃけトークであります。

[ローマ 8日 ロイター] - ギリシャのバルファキス財務相は8日、ギリシャがユーロ圏を離脱すれば他の国が追随し、ユーロ圏は崩壊するとの見解を示した。

同相はイタリア放送協会(RAI)のインタビューで、ギリシャの債務問題はユーロ圏全体の緊縮財政を拒否する取り組みの一環として、解決されなければならないと述べ、欧州投資銀行(EIB)が出資する大規模な投資計画が必要だ、との考えを示した。

「ユーロ圏はぜい弱で、カードで城を作っているようなものだ。ギリシャのカードを取り除けば、全体が崩れる」と述べた。

ギリシャが離脱すればユーロ圏は崩壊=バルファキス財務相| Reuters

お、おう。でもまぁ、ギリシャ自身の責任はともかくとして、概ね真実ではあるかなぁと。現状のユーロでそのような『前例』ができれば、民主主義政治における政治的正当性を持つ=選挙で選ばれた人たちによる「堂々と退場す」が実現してしまう可能性はかなり高い。ユーロ離脱派、ひいては欧州連合離脱派。実際問題として、そうしたことを夢見る人たちはユーロ諸国内部には多数派とは言えないものの、決して少なくないわけですよ。
――しかし、それでも現状ではどこでも彼らのそうした政治的主張は今のところは馬鹿げた夢物語か、ただの戯言、あるいはせいぜい過激なレトリック位にしか扱われていない。そんなこと現実的には不可能だろうと。
でも、誰かがそれをやってしまうと? ……夢だけど、夢じゃなかった!


であるからこそ今回のギリシャ問題というのは、むしろ本当にヨーロッパの平和=欧州連合=ユーロを愛する人たち、にとってこそこのギリシャの事実上の脅迫はホンモノの恐怖でもあるわけですよ。
そしてその意味で、おそらく最もそれを恐れているのはドイツでしょう。
しばしば本邦でも揶揄交じりに指摘されますが、現状のヨーロッパの中でドイツこそがユーロによって大きな利益を得ているのは間違いないでしょう。であるならば当然の帰結として、つまりその体制の最大の擁護者でもあります。ついでに言えば、欧州統合の歴史においても(かつての反省と教訓という意味でも)最もその統合推進に熱心であったのがドイツでもあったわけで。
このまま行けば数週間で「グリグジット」も 今後4カ月をどう乗り切るか、決断まであと数日しかない:JBpress(日本ビジネスプレス)
故にグリジットによってユーロが傷つく――ひいては欧州連合の統合が確実に後退することを最も恐れるのもドイツである、と。

 短期的な資金を確保するのは難しいかもしれないが、行く手に待ち受ける重大な債務交渉と比べたら何でもない。筆者は債務削減が行われると思わないし、どんな種類であれ、財政緩和の余地はごくわずかだと見ている。

 最大の反対は、ドイツはなく、トロイカに反乱を起こさなかったポルトガルなどの他の周縁国から来るだろう。ユーロ圏の危機の決定的瞬間が近づいている。ただし、それは、まだ今週ではない。

このまま行けば数週間で「グリグジット」も 今後4カ月をどう乗り切るか、決断まであと数日しかない:JBpress(日本ビジネスプレス)

だから「反発」という意味では、そんなドイツよりも、北欧の債権国やあるいはギリシャと同じ構図に苦しめられる緊縮財政をひいひい言いながらも実行中の債務国の方がずっと大きな反発を生むことでしょう。絶対にギリシャの勝手は許さない絶対にだ。


一方で、幸か不幸か最大の影響力を有する故に事実上のヨーロッパの覇権国=指導国となっているドイツはこうした状況下にあると最早本人の意思がどうこうでなく、様々な意見を調停し妥協させなければない立場にあるんですよね。だから今のドイツ――というかメルケルさんて三方向から包囲されている。ギリシャを救うべきだという反緊縮財政派、放蕩国家を救う必要はない貸した金返せという国、そして足元のドイツ国民。
それら各意見を如何にして調停させ満足させればいいのか? というリーダーだからこそ直面する難題。
メルケルさんはここで指導力=強権を発揮してギリシャを救済することも、あるいは何もせずに流れに身を任せて危機を放置することもできる。ただ、どちらにしても結局のところ今のユーロにあって、この選択肢があるのって事実上ドイツだけなんですよ。
――故に今回の件を「ドイツが悪い」と言うことはできるものの、しかしそれは別にドイツこそが強硬に反対しているから云々で悪いわけではない。


これってどちらも「茨の道」なんですよね。もちろんユーロ崩壊はとっても悲劇であるし、一方でドイツが本気で指導力を発揮することはつまり誰もが満足できる選択肢がない以上(そんなものがあればとっくにやってる)必ずドイツは『指導国』としてその決断を参加者たち多かれ少なかれ恨まれる運命にある。
まぁアメリカさんちなんかを見ていればその指導国としてのポジションが「何をしても叩かれる」めんどくさい立場であるのはとても良くわかるお話ですよね。行動しては非難され、行動しなくても批判される。


こうした点を考えると、この件で本当に問われているのはヨーロッパにおける「ドイツの指導力」こそが試されているのではないかと思います。この分裂したヨーロッパにおいてギリシャを救うということは、それを調停できるだけのドイツの支配力の証明ともなる。おそらくこの先にあるだろう財政同盟もそれがなければ実現なんかしないでしょうし。
ということで将来的にもユーロ及び欧州連合の方向性を決定づけるだけのイベントとなるのではないかなぁと。もちろん内部的にそんなドイツの決定的台頭に反発する人も居るでしょうから、やっぱり簡単ではないでしょうけど。



ビスマルクも、ヴィルヘルム2世も、そしてヒトラーさえも届かなった、ヨーロッパの中心国家としての資質を試される現代ドイツ=メルケルさん。
まぁ国家誕生から運命づけられていた宿命ではあるかもしれませんね。ドイツという国家がヨーロッパの中心に誕生したときからずっと、つまりヨーロッパにおける勢力均衡の終わりを意味していたのだから。
彼らの四度目の挑戦となるドイツの試練。まぁやっぱり武力によって決まらないだけ随分マシとは言えるかもしれません。


みなさんはいかがお考えでしょうか?