ユーロの中心で「Too big to fail」と叫んでしまったギリシャ

かくして「ギリシャ感じ悪いよね」がまかり通りつつあるユーロ圏。



ギリシャ「チプラス流」に共感失う欧州| Reuters
うーん、まぁ、そうね。概ね同意できるお話かなぁと。

しかし、チプラス政権の度重なるイデオロギー的批判や矛盾する発言、機密書類の流出や強情な交渉戦術により、当初は好感を抱いていた多くの欧州当局者や政治家も、今では反感を抱くようになっている。

ある南欧の政府高官は「(ギリシャ総選挙で)過度の緊縮は欧州を過激主義者の手に渡らせると、ドイツにようやく理解させられると思った」とした上で、「しかしギリシャの振る舞いで、誰も彼らとは関係したくなくなった」と語った。

一部の南欧当局者は、ギリシャが債権者との協議でデフォルト(債務不履行)とユーロ圏離脱をちらつかせる「瀬戸際戦術」で、混乱拡大のリスクを冒していると非難する。

ギリシャ「チプラス流」に共感失う欧州| Reuter

もちろんギリシャの苦境には同情すべき点はあるものの、しかしチプラスさんの態度が債権国たちの態度をより硬化させているのも事実なんですよね。それは懲罰というだけでなく、むしろ危機感を抱かせるような振る舞いによってこそ。
つまり、ギリシャの問題って、典型的なモラルハザード案件ではあるのです。
確かにギリシャを救うことはユーロという『公益』に適うことは間違いないでしょう。しかし同時にそうすることは「どうせ我々のことは大き過ぎて潰せないだろう」と「Too big to fail」という無責任な行動を採るインセンティブを必ず生むことになる。まぁ私たち日本でも見覚えのある、不可避のジレンマですよね。故にそこで人びとは悩むことになる。
救うべきか、救わざるべきか。


そんな「チプラス流」が致命的だったなぁと思うのは、彼らが「どうせあいつらはギリシャをヨーロッパから追い出すなんて不可能だからwww」ということをまさに彼ら自身の口から言ってしまったことにあると思うんですよね。
確かにそれは正論ではあるのです。
――しかし正論であるからこそ、当人がそれを言ったらおしまいなんですよ。故にそれは絶対に封印しておかなくてはならない。
例えば本邦で、りそなや東電がそれを言ったら一体どうなるか。内心ではギリシャを救うことが大多数の公益に適うだろうと考えている人たちですら、地元有権者の反発に耐えられなくなるでしょう。それを公言してしまうのは、まさに地獄の蓋を開いてしまう発言に等しいんですよ。
開き直り過ぎて、自爆芸の域に達している。


債権者たちの心理にずっとあって、しかし公には認めたくないユーロにおける真理でもあったもの。幾ら無責任でもギリシャを追い出せない。その事実が暗黙の了解として存在している内は良かった。
ところが絶望的な窮地に追い込まれたチプラス政権は、そのレッドラインを越えてしまった。
ユーロ圏を破壊したギリシャの債権者 弱者に屈従を強要する容赦ない債権者、何のための通貨同盟か? | JBpress(日本ビジネスプレス)
そうしたチプラスさんの開き直りを受けて今度は逆に債権者たち――ドイツまでもが、ユーロ圏が目指す大目標の為には封印されておくべきはずの本音を吐露してしまった。

 だが、際立ったのは残酷さだけではないし、ギリシャの完全降伏ですらなかった。重要な変化は、ドイツが正式に離脱メカニズムを提案したということだ。7月11日土曜日、ドイツのヴォルフガング・ショイブレ財務相は、期限付きのユーロ圏離脱を要求した。本人の言葉を借りるなら、「タイムアウト」だ。

 筆者はこれまでの人生で、突拍子もない提案をかなり聞いたことがあるが、これはトップクラスだ。一加盟国が他の加盟国の除名を要求したのだ。これこそが先週末の本当の一大事だった。ギリシャレジームチェンジのみならず、ユーロ圏のレジームチェンジも起きたのだ。

ユーロ圏を破壊したギリシャの債権者 弱者に屈従を強要する容赦ない債権者、何のための通貨同盟か? | JBpress(日本ビジネスプレス)

確かに率直な意見対立ではあります。「どうせ俺たちを追い出せないだろう」対「ほんとは出ていってもらいたい」でも本来協力すべき両者が、それを言い合ったらおしまいですよ。不毛すぎる構図。
不信の悪循環の果てにやってくる形式主義 - maukitiの日記
以前の日記でも書きましたけど彼らの間には最早最低限の信頼感すら失われつつあり、不信の悪循環に陥るということは、つまり「暗黙の了解」が成立しなくなるという事でもある。その帰結。
ギリシャが苦境に陥っているのは間違いないものの、しかしチプラス政権の態度によって逆にモラルハザードへの心配をむしろ強めてしまっている。もちろん緊縮は行き過ぎだと思いますけれども、もうちょっと上手くやれなかったのかなぁと。

また、2008年の金融危機以降、痛みを伴う緊縮策を粛々と進めてきたバルト3国には、ギリシャに対する共感はさらに低い。

リトアニアのシャジュス財務相は、ギリシャのデフォルトと債務繰延の脅しは、最低賃金ギリシャの半分であるリトアニアに政治的問題を引き起こしていると指摘。「もし欧州安定機構への返済に適切な対処がなされずに支援金が使われるなら、生活水準に関する重大な問題が持ち上がるだろう。なぜ支援を受ける国よりも(われわれの)最低賃金が著しく低いのかという問題だ」とロイターに語った。

ラトビアも同様に、ギリシャの改革案への譲歩には反対を唱える。同国財務相の報道官は「ギリシャには、救済を受けた他の国と同じ姿勢で臨まなくてはならない」と指摘した。

ラトビアの一般的な市民はギリシャ人に対し、バルファキス財務相が不当だと非難するようなステレオタイプを抱いている。

首都リガで音楽業界で働くソンドラ・レースさんは「ギリシャ人には、いつも太陽を浴びて気楽に構え、仕事をしようがしまいがお構いなしというイメージがある」とコメント。年金の足しにするため警備員として働いているという86歳のペトリス・ルーベンスさんは「ギリシャ人は身の丈以上の暮らしをしてきた。もちろん良い生活を送ってきたのだから、ベルトを締めるときはきついはずだ」と語った。

ギリシャ「チプラス流」に共感失う欧州| Reuters

かくしてチプラス政権のおかげで、実態に合致しているとは必ずしも言えない「ギリシャ感じ悪いよね」が広まっていくユーロ圏。皮肉なことに彼らの戦略が、ギリシャのモラルへの致命的な懐疑を生んでしまっている。


がんばれユーロ。