キリギリスにアリたちの歪んだ純情な感情が空回る

今のギリシャの苦しみは自分も解る。しかし解るからこそ、その苦しみをこれまで粉飾で逃げてきたギリシャは許せない、というアリたちの歪んだ怒りの果てに待つもの。



グレグジットと債務減免のススメ 欧州はギリシャの投票結果を歓迎すべきだ | JBpress(日本ビジネスプレス)
もうちょっと続く現状のユーロ問題概観日記。模範生と劣等生の争い、になっている今のギリシャ問題の対立構造について。
ギリシャ「われわれはヨーロッパ一勤勉な国民である」 - maukitiの日記
最近また話題になっているのかアクセスが地味に増えている、ちょうど三年前のあんな愉快な日記を書いた手前ちょっとアレではあるんですが、あれから色々と本や評論を読んできて、今の問題ってギリシャ国民が怠惰どうこうというお話だとは個人的にはあまり思ってないんですよね。

チプラス氏はギリシャの同胞に、欧州からより良い合意を引き出せると語った。だが、それを本当に信じているのだとすれば、欧州連合EU)の政治を大きく読み誤っている。実際には、ギリシャの債権者は非常に強硬な路線を取るだろう。

 債権者はギリシャに怒り、うんざりしている。それ以上に重要なことに、多くの人が、欧州単一通貨の長期的な存続は、各国が共通のルールに従って暮らし、予算を均衡させ、債務を返済しなければならないということをはっきりさせることにかかっていると信じている。

 その点を強調するためにギリシャを罰する必要があるのであれば、それも仕方ない、というわけだ。

グレグジットと債務減免のススメ 欧州はギリシャの投票結果を歓迎すべきだ | JBpress(日本ビジネスプレス)

さすがイギリスさんちは他人事だけあって、概ね客観的で頷ける現状認識かなぁと。



先日のドイツ輸出問題と同様に、今のギリシャ=ユーロ問題で誤解されがちなのは――結果的には同じだとしても――特にギリシャ同様『小国』な債権国たちが怠惰だと思っているのは「ギリシャ国民」ではなくむしろ「ギリシャ政府」の方なんですよね。まぁ民主主義である以上、その監視と抑制を怠ってきたギリシャ国民の責任もやっぱりあるんですが。
――重要なのは(南部欧州的と揶揄される)国民性として怠惰故にギリシャがキリギリス扱いされているのではなくて、粉飾してきたその性質故に彼らがキリギリス扱いされている、という点にその反発の根源があるのだと私は思っています。
この歪な妬みや嫉みに近い感情は、私たちの日常生活でも見られるように、まぁ厄介な反発心を生むわけですよ。他人が不当に楽をしていることで、何か自分が損をしたような気持になってしまう私たち。


そもそも、今のギリシャほどには過激ではないものの、あの悪名高き『SGP=財政安定成長協定』は常日頃から軽い緊縮をユーロ加盟国に強要していた。ドイツやフランス、イタリア程度に「大きな」国にとってはちょっと位逸脱しても咎められない「財政均衡または黒字」という理想論的協定も、しかし(ギリシャも含む)ユーロ圏の小国たちにとっては死活問題だったのです。それを破ればまさに今のギリシャのように懲罰のような押しつけをされることを知っていたから。
しかもただ守るだけではなく不況時には(ユーロの通貨切り下げが出来ない以上より一層)財政赤字を拡大しなければいけない以上、ギリギリ達成するのではなくむしろ協定以上に常日頃からいざという時に赤字拡大をできるだけの余地を残すことが求められていました。
――そうやって日頃から財政健全へ楽ではない努力を重ねてきたのが、所謂『ユーロ模範生』とされる国たちなんですよ。
だから緊縮を押し付けられたギリシャの苦しみは当然債権国たちにだって理解できるのです。だってそれは彼らが常日頃からやってきたことだから。しかしまさに理解しているからこそ、これまで粉飾によってその苦しみから「不当に」逃れてきたギリシャを許せないという気持ちも強く抱いている。


「これまでのうのうとやってきたのだから、今ギリシャが苦しむのは当然の報いである」
「何故、常日頃から地道に努力してきた真面目な俺たちが、そんな放蕩者を救わねばならないのだ?」


身も蓋もなくギリシャの現状を自業自得だと考える債権者たち。
まぁそれは全く理解できない感情というわけではないですよね。ギリシャ政府が「怠惰」視される最大の理由がここでしょう。債権者たちはギリシャ政府がやってきた粉飾によって、本来味わうべき財政均衡への取り組みの苦しみを不当に逃れてきたのだと考えている。その積み重ねが一度にやってきたに過ぎないのだ、と。
この背景を考えれば、(ユーロの指導者である)ドイツよりもむしろオランダ等の債権国たちの方が、ギリシャ救済に強硬な反対派であることが理解できるのではないでしょうか。
つまり、そんな模範生たる彼らが望む『ユーロ』とは、そのような模範的政府の集まるグループであると信じているわけですよ。ギリシャのような劣等生が居なくなればユーロはより強固で優越した存在になれると信じている。まぁ過度の緊縮がバカげているのはさて置くとして、しかしそのように「模範国たちが」考えるのも理解できなくはないですよね。だってそのルールをきちんと守ってきたからこそ彼らはまさに模範生なのだから。逆にそんなルールを守らなかったギリシャの惨状を見ては、更に確信を深めることになる。
現状方針のままより進歩し素晴らしいユーロにする為には、劣等生たちを切り捨てるしかないというのも、その点に絞って言えばおそらく正しい。


一方で事実上ヨーロッパの盟主たるドイツは集団の空中分解を防ぐために、そんな我が侭に近いギリシャへの反発心を――内心では抱いていたともしても――表に出すわけにはいかない。
かくして優等生グループは(クラスのルールを破り続けてきた)劣等生を排除せよと叫び、劣等生はそれでも自分をきちんと仲間扱いするべきだと開き直り、間に挟まれた委員長はクラスの団結維持に苦心する。


いやぁユーロクラスって学級崩壊一歩手前ですよね。
みなさんはいかがお考えでしょうか?