テロリストのトリクルダウン

恐怖は再配分されていく。



EU内相会議 難民12万人の分担受け入れ決定 NHKニュース
EU難民分担を賛成多数で決定、チェコなど東欧4カ国反対| Reuters
ということで欧州連合では難民受け入れ分担についてどうにかこうにか合意できたそうで。基本は全会一致のはずが、どうしても合意できないから多数決に。またEUの民主主義の赤字が増大してしまった感。あ、これが噂のキョーコーサイケツって奴ですね。ヨーロッパでクーデターが起きた! メルケルヒトラー! 民主主義は死んだ! 
メディア報道:難民に紛れてイスラム国戦士4000人が欧州に入り込んだ
イスラム国のジハード戦士が「シリア難民のふりしてるかも」 - 今日の覚書、集めてみました
――とまぁそんな小粋なジョークはさて置くとして、しかしこうなると「次」の問題になるのはやっぱりこっちだよねぇと。こうして苦労しながらも公式に受け入れを表明した後に、何者かがテロを起こしたら一体どうなってしまうか。と考えるとまぁおっそろしい揺り戻しが待っているわけで。


もちろん欧州内でも一部の冷静な政治家なんかが仰っているように、だからといって、テロリストによる直接の被害が大きなものかと言うとやっぱりそれはないわけですよ。よっぽど致命的な場所を狙われなければせいぜい数十人が死んでしまうだけ。それこそテロで死ぬよりも毎日交通事故で、あるいは何か病気にかかって死ぬ確率の方が当然ずっと高い。それなら数十万人を救う方策を立てた方が建設的だというのは正論でしょう。
しかし、それでも、私たちはその極小の可能性を恐れずにはいられない。まさに恐怖を伝染させ社会を不安定化させることこそがテロリストの勝利だと解っていながらも、不安を抱かずにはいられない。こうした点こそ、居る「かも」しれないテロリスト、あるいは極僅かな数「しか」居ないテロリストたちの勝利の方程式であり、社会に恐怖を伝染させる伝染させるテロリズムというのはそれはもう効率性に優れた手法とされているのです。


それこそ最近の本邦でも熊谷でペルー人な人のニュースがありましたけども、ああした事件があっても尚、現代日本では敢えてペルー人に襲われるリスクというのは極小でしかないわけですよ。しかし現地では――あるいはニュースを見た多くの人が素朴に「ペルー人こええ」と多かれ少なかれ思ったはずです。
――表向きこそ平静を装っていても、また事件を起こすかもしれないという内心の恐怖は止めようもなく広まっていく。
その極北である『9・11』では、アメリカ人たちが対テロの名目に、粛々と自発的に自らの時間と自由を手放していったように。あれだけの被害があっても尚、アメリカ人がテロによって死ぬ確率は自殺で死ぬ確率の575分の1でしかない*1。よく当時の空気について政府の強引な所業として語られますけども、そんな極小の可能性にもかかわらず恐怖におびえた良き市民たちの合意があったことは間違いないんですよ。


それらと同じように、難民に紛れたテロによって直接に死者が出るだけならばそこまで問題ではないのです。しかしそうしたテロはまず間違いなく、ただでさえ一部から反応のよくない難民たちへの印象を決定的に悪化させるでしょう。問題はそうした間接的影響の方なんですよね。
極一部の悪影響が、滴り落ちるように全体へ行き渡っていく。正の経済効果としては結構議論の分かれるトリクルダウンではありますが、しかしテロという行為の下流への再配分効果はほぼ確実に存在すると言っていい。


ここでどうにかこうにか実現された受け入れ合意は、もし、上手く偽装難民によるテロを成功されてしまうと一気にひっくり返りかねない。もし現実になれば地元住民の反発や受け入れ分担をめぐって難民受け入れコストは一層増大することは間違いなく、更にはテロとは無関係の難民たち自身さえも審査の厳格化及び遅延化によって多大なデメリットを被ることになる。


むしろこうしてどうにかこうにか合意がなった今だからこそ、その危険度=テロリストにとって社会不安という目的の達成はより一層魅力的なモノになりつつある。偽装難民によるテロが生むトリクルダウンの効果は、合意がなされる前よりも、欧州各国が苦労を重ねてすばらしい合意をした今というタイミングだからこそ、極大化しつつある。
その意味でヨーロッパの試練はまさにこれからが本番なのだろうなぁ。がんばれヨーロッパ。


みなさんはいかがお考えでしょうか?

*1:『超ヤバい経済学』P81