人種のるつぼは遠くになりにけり

大都市群島inアメリカ。


身動きとれない米国人、田舎に足止めの訳は - WSJ
面白いお話。トランプ現象を筆頭とした現代アメリカを蝕む『分断』という病魔の核心という感じはあります。

 「田舎町から都会に移住した人々が感じる大きな文化的ギャップの一つは、地域社会に溶け込めないという感覚だ」。アイオワ州立大学のデービッド・J・ピータース准教授(社会学)はこう語る。「どうにも変えられない大都会では、われわれは無力感を味わう」 

身動きとれない米国人、田舎に足止めの訳は - WSJ

都市部と田舎で分裂していくアメリカ。その隔絶が固まりつつあるということは、つまり両者間の移動が減ってきていることの証左でもある。まぁでも、この辺はトランプさんの登場以前からロバート・パットナム先生なんかを筆頭にずっと言われてきたお話ではあります。アメリカ国民は分断に向かいつつあるのではないか、そしてそれが意味するのはアメリカという国家を形作ってきた民主主義政治の融解でもある、と。
かつて大多数を占めた産業革命以来の製造業で働く労働者たちは、その「働く場所」という意味であまり自由度は高くなかった。河川や港、鉄道、そして原材料などの近接性によって働く場所が決められてきたことで、人間の方こそを移動させてその結果として様々な地域からやってきた人たちを混交させてきたのであります。であるからこそその副次効果として、近代国家というのは工業化と共に国民国家として一つのアイデンティティを得ることに成功した。
ところが今はもうそういう時代じゃないんですよね。技術進歩と製造業メインからの卒業によって、素晴らしいことに労働者たちは所在地を自由に選択できるようになった。かくして人びとは自分の好きな場所=気候や生活スタイルそして文化的親和性で所在地を選ぶようになり、その選好によって同じアメリカ国民の間でも地域による「偏り」が避けられなくなっている。
「人種のるつぼ」のおわり。
クリントンさんとトランプさんの投票先で分けたアメリカ地図なんかでも言われていましたけど、同じアメリカでも都市部と田舎ではまるで外国のように違ってきている。それは単純に支持政党というだけでない、文化的価値観というレベルにまで至りつつあると。


アーサー・シュレンジャー・ジュニア先生なんかはその要因を多文化主義のせいだとしてきましたけど、現状を見る限り当たらずと雖も遠からずという辺りでしょうか。そんなアメリカ版多文化主義への『態度』こそが現状の分断を象徴しているのか、それともそれこそが要因なのか。ちなみに彼は『アメリカの分裂―多元文化社会についての所見』の中でその危惧を次のように述べています。

アメリカは)多様な民族、宗教、言語、文化の人びとの共通のアイデンティティの確立に一定期間、適度に成功した実験である。しかしこの実験は、アメリカ人がその目的を信じ続けるかぎりにおいてのみ成功し続ける。もしいまアメリカがジョージ・ワシントンの『一つの国民』というかつての目的から背を向けるならば、その未来はどうなるだろうか。国家共同体の分裂、アパルトヘイト、バルカン化、部族化だろうか。

今のアメリカにある親トランプと反トランプさんの軋轢を見ると色々と考えてしまうお話。ちなみにこれは1992年のお話ではありますが、この予言は短期的にはハズれ、その後の一時期には政治社会的方向が逆の流れに向かったんですよね。少なくともその瞬間にはアメリカ国民が一つになった。
――『9・11』による悲しみと怒りを共有することによって。
これは第二次大戦時なんかでも同じことが起きたと指摘されていて、まぁもしかしたら再びアメリカの分断傾向に歯止めが掛かる転機がやってくるかもしれない。国民全体で悲劇を共有することで。希望は戦争。


おっと、都合よく今そこにいるのは核ミサイルを弄ぶ北朝鮮さん。


がんばれアメリカ。