客観性という隠れ蓑。
なんとプーチンに密着取材！オリバー・ストーン監督が見た驚きの事実（土方 奈美） | 現代ビジネス | 講談社（1/2）
おもしろいお話。
ストーンに「ロシアの主張をもっと積極的に伝えていくべきだ」と促され、「そんなことは土台無理なんだ。ロシアが主張する立場は世界のメディアから無視される。だから邪悪なロシアといった論調ができあがる」と答える姿には、国際社会に対する苛立ちと諦観がにじむ。
なんとプーチンに密着取材！オリバー・ストーン監督が見た驚きの事実（土方 奈美） | 現代ビジネス | 講談社（1/2）
その是非がともかくとして、まぁプーチンさんが身も蓋もない現実を言っているのも確かでしょう。当日記でもしばしば「国際社会」に「（）」を付けて揶揄するように、あくまでその国際社会って世界全体なんてことまさかあるはずなく、先進国たる欧米世界を指していることがほとんどである。仕方ないよね。だって彼らが声の大きい強者なんだもん。
もちろんそれを解っていて自覚的に使うのならば全然問題ないし、結局はそれが事実なのだから正解です。ただそうした大前提をあまりにも無視してしまうと、まぁトランプさん旋風の時のように「アメリカ都市部の意見こそアメリカ有権者全体の声である」なんて事を無邪気に確信して大カウンターを食らってしまうことがあるので注意が必要だよね。
ともあれ、今回の日記で書きたいのは本邦でも恣意的に利用される『国際社会の声』という欺瞞のお話ではなくて、むしろプーチンさんも「メディアの客観性とは幻想である」という諦観はやっぱりあって、それを率直に教えてくれているよなぁと。
――いやまぁもちろん「世界のメディアは本当に客観的なのに彼の認知が（その奇異なイデオロギーによって）歪んでいるからだ！」と強弁することはできますけども。
少なくとも、ロシアのポジションを公平に説明してくれる世界的＝欧米メディアはないと彼は思っている。まぁ概ねその通りですよね。誰かの視点を通さずしてニュースを伝えられるのか？ 私たち日本ですらそういう報道に違和感を覚えることは少なくないそれが、ロシアならば尚更でしょう。国内で完結するローカルなメディアならともかくとしても、世界規模で展開し影響力を持つメディアですらそうではない。普段一部のメディアが謳っている客観性とは何だったのか。まぁでも日本人な我々としても例えば北朝鮮のポジション――核兵器開発や拉致問題など――を客観的に報道されてもかなり困惑してしまうのはおそらく間違いないでしょう。
北朝鮮の立場からすれば仕方のないことだった、なんて。
このお話が更に一歩進むと、ならばそもそもメディアに客観性は必要なのか？ という議論にもなるんですよね。昨今の国際ニュースを見ても、世界的なメディアはどんな非人道的な問題でも「客観的に」報道する必要があるのか？ と聞かれて一切悩まずにイエスと答えられる人はそう居ないでしょう。
故に昔から「そもそもジャーナリズムに客観性なんて幻想である」という意見があるわけで。それこそピューリッツァー賞なんかを見ても、何らかの社会的不正義に対する個人的意見こそ根本にある。特定のイデオロギーを擁護し、不正を訴える。客観性を保ちながらそうするのはほとんど不可能ですよね。
それはよりミクロな国内政治報道でも同様で、ジャーナリズムはその最重要の使命の一つに権力監視があるのは間違いなく、そのポジションに出来るだけ立とうとするならば必然的に反権力そして反政府になるのは自然なんですよね。全てではないにしろ、客観性と権力監視はコンフリクトする。
杜撰さとキャッチーさと朝日 - maukitiの日記
以前日記でも少し書いたお話ではありますが、だからこそ下手に客観性を売りにしてきた（売りにしてしまった）新聞は苦境に立っているんじゃないかと。エビデンスはともかくとして、しかし客観性にこだわり過ぎていては価値ある報道は生み出せず、下手したら『体制派メディア』というレッテルさえ貼られかねない。でもそうしなければ自分の意見やポジションについて、視聴者や読者へ真っ向から是非を問うことに他ならない。
だからむしろ客観性を謳う方が「楽」ではあるのです。自身の報道によって社会にある不正義を読者に納得させるだけの説得力が持てないなら、いっそ偽り騙した方が簡単でしょう。その客観性を脱却した果ての苦しさに打ち勝てないまま、安易にデマや扇動を重ねてしまう愉快な人たちを見ると、まぁ悲しい気持ちにはなってしまいますけど。それならまだ客観的だと偽っていた方がマシだよね。それこそ権力者たちに阿っていた方が楽に生きれるように。
そうするには自身のプライドと、正義感が許さない。しかしそう生きていくには自身の能力が足りない。悲しいお話だよね。
メディアの客観性の是非について。
みなさんはいかがお考えでしょうか？
