ゲームの達人

経済戦争における禁止兵器を上手く使える人とは?


【解説】米中、追加関税の発動猶予で合意 貿易戦争の勝者はどちらなのか - BBCニュース
やるぞやるぞと迫っていた追加関税が回避されたそうで。

今回の合意は一見、米国にとって有利な内容だ。

中国政府のビジネス手法について米政府が問題視するいくつかの重要な点について、中国から対話姿勢を引き出した。さらに、「相当」量の米国製農産物とエネルギー、そして工業製品を購入するという合意も、中国から引き出した。

また、貿易戦争の偶然の被害者となった、米クアルコムによるオランダのNXPセミコンダクターズ買収に関する取引もあった。この買収は今年7月、中国政府の承認が得られなかったことで1度失敗に終わっていたが、習主席が承認に「前向きだ」と発言した。

【解説】米中、追加関税の発動猶予で合意 貿易戦争の勝者はどちらなのか - BBCニュース

トランプさん大勝利であります。
少なくとも、この点を見る限りにおいてトランプさんの米中問題の舵取りは概ね上手くいっていると言うことはできるよねえ。それこそ北朝鮮の非核化問題でもそうですけど、最後の結末あるいは長期的影響がどうなるかは別問題として、こちらも同様に途中経過・中間決算としては十分すぎる出来でしょう。
しかもこの成果はただアメリカ一国というだけでなく、私たち日本を含め多くのプレイヤーが内心不満に思っていた、しかし表だって口には出せなかった実質的な中国版の保護主義にあった高い関税・技術移転強要・補助金にメスを入れることができたんだから。最恵国待遇をたのしみにしている私たち。
そもそもトランプさん無謀にも始めたこの米中の貿易戦争というカーニバルの幕開けなしに、この構図に穴をあけられていたかどうかを考えると……。そんな中国側の問題についてWTOってこれまで何していたんだっけ?


かくして、やっぱり希望は戦争だったというオチ。


トランプさんが中国に関税をかけることが決まってから、「これで中国からカネをせしめられるぞ!」「アホか、それを払うのは米国民だ」というコントのような風景があったりしましたけども、この指摘は確かに正しいんですよ。少なくとも半分は正しい。保護主義は自分たちの経済を傷つける自傷行為である、というだけでなく、もう半分の真実にあるのは自分たちだけでなく「相手にも」ダメージを与えることができるという点。自分もリスクを負うが、相手にもそれを強要することができる。トランプさんらしいチキンレースに持ち込むことができる。
保護主義は利益の源泉にはならないが、しかし相手への脅しとしては十分通用する。
自由貿易を絶対的教義として刷り込まれた私たちは中々その覚悟に至ることができないものの、実際には保護主義は抑止力として使えるんですよ。使うことにもちろんデメリットは存在するものの、しかし上手く使うこと(を示唆する)ができれば相手への強力なカードともなる。
これって例えば『核兵器』なんかと同様の存在でしょう。核兵器を持つことによる直接的なメリットは――少なくとも現代世界においては――ほとんど存在しない。それどころか、多大な費用負担に加え国際社会からの圧力を考えれば、端的に持つ方がメリットが大きいとは絶対に言えない。しかしその極大の破壊力を持つ禁忌の兵器である故にそれは抑止力と機能しているし、また交渉材料としてその増減や移動が用いられることになる。北朝鮮がやってることほとんどそのまんまに。


使わない方が望ましいが、しかしいざという時それを上手く使う能力があるならば、保護主義は経済戦争における強力な交渉カードになる。実際に、10億を超えるという巨大市場を背景にして中国はそうやってきたし、それを今回はアメリカが同じようにやっただけ。
まさかそれをあの彼が上手く使うとは。トランプに感謝だな。
まぁそうやってより肉を切らせてでも相手の骨を断った方が優位に立つ、という荒んだ考え方が国際関係全体を危ういバランスへ向かわせるというお話は否定できませんけど。winwinな相互互恵関係ではなく、これからはゼロサムゲームな米中関係である。つまるところトランプさん――というか米議会のトレンドとしてもオバマ以後のアメリカの方針ってそういうことでしょう。
なぜ保護主義は戦争を招くのか? - maukitiの日記
(政治的)保護主義の行き着く果て - maukitiの日記
これまでも保護主義ネタについてずっとうちの日記で書いてきたように、だからこそ保護主義がいつか戦争を招くと言われ続けてきた。まぁそういう時代だからしかたないよね。


経済戦争における保護主義カードの使い方について。かつての日本もそうだったように、既存の中国に続く、そしてまた新たなゲームの達人がひとり。
みなさんはいかがお考えでしょうか?